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幸せの時間 あらすじ 最終回 [幸せの時間 あらすじ 最終回]

幸せの時間 あらすじ 最終回

達彦の目は明らかに燿子を怒っていた。

「あのね、パパ。私どうしても赤ちゃんが欲しかったから・・・」

二歩、三歩、達彦は燿子に向かって近づいてきた。

「・・・出てってくれ・・・でてけ!!」

達彦は怒りに任せ燿子を怒鳴りつけた。

「・・お願いパパ。そんな事言わないで・・・パパだって赤ちゃんが・・・」

「君とは・・・幸せになれない・・・」

燿子は泣いて達彦に訴えた。
だが、その心は達彦の耳には届かなかった。

燿子は何も考えられないまま、達彦のもとを去った。
足には何も履かず、服装も乱れたまま夜の街へ消えていった。


達彦も気力を無くしてソファーに座り込んでいた。

「あなた・・・いいの?・・・あなた?」

燿子を追いかけようともしない達彦に智子が後ろから話かけた。

「あんな女と・・・どうやって寄り添えと言うんだ・・・」

下をむいたままの達彦を怪訝な表情で見つめる智子だった。

「見ぃ・・上ぁげてぇ・・・ごらん・・・夜のぉほーしをー」

燿子は夜の公園で一人ブランコに揺られていた。
近くで買った酒瓶を飲み干し、バッグもハイヒールも投げ出して
酔って空を見上げていた。

「私のパパはお空にいるの・・・だからこの世にパパはいないの・・・」

ブランコを降り、歩き出した燿子はすぐに足が絡まって地面に転がってしまった。
仰向けになると空いっぱいの星が燿子を包み込んでくれた。

「・・・綺麗・・」

意識が薄れていく中で誰かが自分のそばに立っているのがわかった。
口を開く前に燿子は深い眠りに落ちていった。


篠田は燿子を背負い、自分の店に戻ってきた。
今ならこの女を・・・

テーブルの荷物を払いのけ篠田は燿子をそこへ寝かせた。

「もういいだろ・・・あんたも楽になりたいだろう」

そう言うと篠田は燿子の首に手を添えた。
歯を食いしばり、息を止め、力を入れた・・・


あくる朝。
智子は再び浅倉家を訪ねた。リビングでは達彦が出かける準備をしていた。

「燿子さんから連絡は?」

「・・あるわけないだろう。もう戻っちゃこないさ」

達彦の返事は冷たかった。

「どこへ行くの?会社は辞めたって良介が」

「仕事探しだよ・・・昨日は友達面した奴に騙された。話がうますぎると思ったんだ」

そう言うと達彦は部屋からでて行こうとした。

「そんな事は今はどうでもいい。捜して欲しいのよ」

「あなたに捜してほしくて、燿子さん出ていったの」

「死ぬかもしれないわ、あなたに見捨てられて」

智子は達彦を行かせるわけにはいかなかった。
自分をあんなに苦しめた燿子だったが、今なら燿子の気持ちを察することができた。

「・・・そんな事。」

「あの人の純粋な気持ち、わかったって言ったじゃない。私だってわかる」

「あの人は命をかけてあなたを愛してる。良介と香織にも連絡します」

「一緒に捜すから、燿子さん見つけてあげて」

達彦は何も言わなかった。
智子はそのまま良介と香織を呼び出した。

智子は篠田の店にやってきた。
あんなに嫌った篠田だったが、今はそんな気持ちもほとんで消えていた。
何より燿子の命がかかっているしれないのに、そんな事を気にしている余裕もなかった。

「篠田さん。高村燿子さん見なかった?」

しゃがんで花の手入れをしている篠田に智子は話かけた。
篠田は立ち上がって智子の話を聞いていた。

「昨夜、居なくなっちゃったのよ、あの人。少し様子がおかしくて・・・」

篠田はテーブルを見やり静かに話しだした。

「・・・ここにいました。今朝方まで」

「ここに・・・?」

「疲れて、泥のように眠ってた・・・」

篠田の脳裏に昨夜の事が蘇ってきた。

燿子の首を絞めにかかった時、燿子はうわ言で「パパ・・・」と言った。
そして一筋の涙が燿子のこめかみへ伝っていった時
篠田はそこに燿子の純粋な想いを見たような気がした。

不器用だから受け入れてもらえない・・・
それは自分も同じだった。

篠田は結局何も出来ず、燿子をそのまま寝かせておいたのだった。

「でも、朝になったら姿が消えていて・・・」

結局夜になっても燿子は見つからなかった。
達彦は暫く外で待っていたが、諦めて中へ入ってきた。

良介も香織もいて、皮肉にも浅倉家が全員揃っていた。

「他にもう心当たりなんか・・・」

「死んでんじゃないの?山奥かどっかで首吊って」

香織が毒づいた。

「やめて、香織」

智子が止めにかかった。

「もう知らない・・・パパが一人で捜せばいいじゃん」

「あの人がどうなろうと私たちには関係ないんだから」

達彦は子供達に背を向け一人でビールを飲んでいた。
智子は燿子の寂しさを考えるとどうにもやりきれないのだった。

「やめなさい。私はもうあの人を責められない、責めたくないの」

「あんなに苦しんで自分を追い詰めて・・・辛くてみてられない」

その瞬間。

家が大きく唸り声をあげた。

観葉植物が倒れ、壁に大きな亀裂が走った。
立っているのも困難な状況だった。

「怖い!何これ!」

香織が叫んだ

「家だ・・この家が悲鳴をあげてるんだ」

揺れは簡単に収まりそうになかった。

突如窓ガラスの割れる音がした。
それに反応したのか家はその揺れを止めた。

割れた窓の向こうに誰かがいた。
皆が見つめる中、その人物は窓を開け家の中に入ってきた。

「燿子・・・」

「燿子さん・・・」

それは高村燿子だった。
帰ってきた燿子はどこか様子がおかしかった。

「一緒に死にましょ、パパ」

燿子は持っていた包丁を自分の前に出して構えた。
その目は真っ直ぐに達彦を見ていた。

「パパを殺して私も死ぬ。そうすれば永遠に一緒にいられるわ」

燿子は包丁を構えたまま達彦に近づいていった。

「燿子さん!」

「この世では幸せになれないけど、お空なら・・・」

その時智子が燿子の前に立ちはだかった。

「燿子さん、私胸が痛くてたまらない」

「あなたの痛みが心に刺さって切なくてたまらないのよ」

「ずっと一人だった私の気持ちが、あなたなんかにわかるわけない!」

今更燿子が智子の言う事を聞くはずがなかった。

それを見届けるかのように家がまた唸りをあげた。
それは、もう・・・

激しい揺れはとうとう天井を崩しはじめた。
どこかで柱の折れる音がした。
土煙が舞いバラバラと何かが落ちてくる。

「いやあ!!」

「この家崩れるよ!」

香織が悲鳴をあげた。
良介が香織をかばっていた。

「良介!香織を連れて逃げて!」

智子はそれだけ叫ぶのがやっとだった。

「燿子さん、あなたも早く!」

立っているのも出来ない状態で智子は達彦と燿子にも逃げるように言った。

「待っててねパパ・・・私もすぐに後を追うから・・・」

燿子は既に正常ではなかった。
死を覚悟した燿子にはこの状況は気にならないのかもしれなかった。

また揺れが収まった。
いつ崩れるともしれない家の中で運命に翻弄された人々は一つの答えを出そうとしていた、

「いいよ・・燿子。お前の好きなようにして・・・」

「・・・あなた・・」

「これからは寄り添い合って生きていこうな・・・」

達彦は燿子に正面から向きあおうとしていた。
達彦の決意に智子は何も言えなかった。

「うれしい・・・」

燿子は包丁を構え直し前にでようとした。

「だめ!燿子さん!!」

智子の叫びも虚しく燿子は達彦めがけて突進した。

何かが動いた・・・

気がつくと誰かが燿子の前に飛び出していた。

篠田だった。

篠田はその身をもって、胸に燿子の刃を受け止めていた。

「う・・うぅ・・あぁ・・」

「篠田さん!」

篠田はその場へ崩れた。
智子が支えて呼びかけていた。

「・・・逃げて・・ください・・」

「どうして・・・なぜこんな事を・・!」

智子が必死に語りかけた。
燿子は悲壮な表情を浮かべ黙って立っていた
家が再び唸りをあげ始めていた。

「この女の中に自分を見てた・・・合わせ鏡を見るように・・・」

「あなたを愛していると言いながら・・・本当は自分しか愛せない醜い自分を・・・」

「これで・・・逃れられる・・・」

「僕を苦しめ・・・この子を苦しめた・・・悪魔から」

篠田首が力無く傾いた。

「篠田さん?篠田さん!!」

智子の呼びかけも虚しく篠田は事切れていた。

そして、ついに家は我慢の限度を超え、天井の梁が落ちてきた。
その梁が燿子を捕え、その上に次々と瓦礫が重なった。

「きゃあ!」

「燿子!」

達彦と智子が燿子のもとへ駆け寄った。
瓦礫を除けると梁の下敷きになって燿子が倒れていた。

「・・・パ・・パ」

「今助けてやるからな」

「燿子さん!しっかり!」

崩れ続ける家の中で達彦と智子は必死に梁を動かそうととした。

「パパ・・・私もうダメ・・・動けない・・・」

「諦めるな!燿子!」

「燿子さん!!」

弱音を吐く燿子を達彦も智子も励まし続けた。
唸りは更に激しさを増してゆく。

「・・・パパ・・うご・・けない・・」

「燿子さん!諦めちゃダメ!しっかりして!しっかりするのよ!燿子さん!!」

この状況でも燿子を励まし助けようとする智子。
それは自分を苦しめた相手に向けたものとは思えなかった。

達彦にはそれがまるで家族に向けて叫んでいるかのように見えた。


目を覚ますとそこはベッドの上だった。
見回すとその部屋には見覚えがあった。
体を起こし昨夜からの記憶をたどっているとみどりが入ったきた。

「大変だったね。あの家が崩壊するなんて・・・今朝の新聞にも載ってる」

「アルバムも・・・子供達の絵や工作も・・家族の思い出は全部無くなっっちゃった」

「何もかも・・・なくなっちゃった」

あの家の崩壊は智子と智子の家族の思い出を道連れにしてしまった。
智子は達彦や良介、香織が家族出会った証明がなくなってしまったように思えた。



耐えられずに泣きだしてしまう智子。
その時にあのUSBメモリの事を思い出した。

智子はベッドからでて、近くにあったバッグからUSBメモリを見つけ出した。

「みどり、パソコン貸して」

パソコンにUSBメモリを挿し「お弁当写真」というフォルダを開くと
無数の写真が再生されていった。

「見えるよ・・・このお弁当の中に家族の歴史が・・浅倉家の歴史が全部詰まってる」

みどりはそう言って智子の傷だらけの心を包んでくれた。

毎日毎日作ってきたお弁当・・・
運動会・・・遠足・・・ピクニック・・・一枚一枚のお弁当の写真を眺めるだけで
楽しかった思い出が鮮やかに蘇ってくる。

小さな箱の隅に希望はちゃんと残されていた。
智子はみどりの言葉を噛み締め、バッグの隅に残っていた思い出に、喜びの涙を流すのだった


-そして半年の月日が流れ・・・

智子はやっぱりお弁当を作っていた。

「先生、羽子板の下の形がちょっと難しいんですけど」

「あ、包丁にこだわらずに抜き型をうまく使ってください」

智子は実家を改修し料理教室を開いていた。
智子の素敵なお弁当に多くの生徒が集まってくれた。

「はんぺんは薄く縦に切ると色々使えて便利ですよ」

佐代子が智子を手伝ってくれていた。
佐代子の主婦としての知識は智子にとってもありがたかった。

そして、もう一つの大きな戦力。

智子のお弁当を綺麗な絵にしてくれる奈津は智子の教室の大事な右腕になっていた。
今日も教室のホワイトボードにお弁当の絵を貼り付けていた。

「奈津さん来てくれたんだ」

嬉しそうに入ってきたのは香織だった。

「うん。あれ?学校冬休みじゃないの?」

「部活、音楽クラブに入ったんだ」

香織は手に持ったバイオリンを持ち上げて見せた。

「ねえ。今日姫は?」

「来てるよ」

香織は今大きな楽しみがあった。
それは良介と奈津の子供、美結に会うことだった。

「美結たん、元気でしたかぁ。香織おばちゃんですよお・・・んん、かわいい」

香織は美結にメロメロだった。

「みんなの分、お弁当作っといたわ」

「いつもすいません。お母さん」

「今日は久しぶりにおふくろのお弁当が食べられるって、良介楽しみにしてました」

智子は良介やそれ以外の人にもお弁当を作っていた。

奈津は智子をお母さんと呼んでいた。
今はもう、一人で生きていた頃の寂しさは無くなっていた。
一度にたくさんの家族ができて、幸せのまっただ中にいた。

「おじさんの分ある?」

「あるわよ」

香織が矢崎のお弁当の心配をしていた。

「先生。すみませーん」

「はい。今行きます」

生徒の一人が智子を呼んでいた。

「それじゃ、みんなによろしくね」

智子は仕事に戻り、奈津と香織はお弁当を手にそれぞれの場所へ向かった。


良介は少しづつ仕事を覚えていった。
簡単な作業は任せてもらえるようになっていた。

「良介、美人のかみさん来てるぜ」

「あ、はい。すみません」

先輩に教えられ良介は外へ出てきた。

「おーい。こっちこっち」

良介は奈津を見つけると手を振って走り寄っていった。

「お待ちかねのママ弁、美結ちゃんがお届けに上がりました」

「サンキュー、美結」

良介は可愛い我が娘に顔を近づけた

「ああ、ダメ。そんな汗だくの顔くっつけないでよ」

奈津に阻止されてしまった。

「ちぇ・・、帰ったらチューしまくってやる」

奈津は良介が建てている家を見上げた

「だいぶ出来てきたね・・・」

「ここで暮らす家族の顔、思い浮かべながら造ってるんだ」

「家って住む人の夢が詰まってるから」

「やってる事はまだ下っ端だけど、身が引き締まる思いだよ」

「もっと経験積んで、資格も取って、いつか俺たち家族の家・・・建ててやるからな」

それは良介がたどり着いた一つの答え。
良介もまた家族のために身を捧げる覚悟でいた。


矢崎は知り合いの経営する工場にやってきた。
中を覗くと一人の男が機械操作を教わっていた。

「だいぶ似あってきたな。工場のおっさんが」

「おかげさんで・・・」

達彦は矢崎が言っていた工場に世話になっていた。

「社長が言ってたよ。俺の友達にしちゃ、出来が良すぎるって」

「しゃかりきだよ。この年になって初めて習う事ばかりなんだから」

「相変わらず熱いねえ、お前は・・・」

矢崎も嬉しいのか、達彦を茶化して言った。

「ああ、会社、倒産免れそうだって?」

「ああ、偉いもんだよ、東京未来クリエーションは」

「こんな状況でも、俺みたいなダメ社員に給料払ってくれてるんだぜ?」

「しょうがねえな、骨を埋める覚悟で奉公してやるか」

「まだまだ可愛い子いっぱい残ってるしよ」

矢崎の心にも変化が訪れていた。
達彦の笑顔はかつて見たことがないぐらい明るかった。

「いたいた。おじさん、」

「お、香織ちゃん」

「・・・香織」

突然の香織の来訪に達彦はどうしていいか戸惑ってしまった。

「はい。お弁当」

「おう。サンキュー」

香織は紙袋からお弁当包みを取り出して矢崎に手渡した

「弁当?」

達彦は目の前の状況が理解できなかった。

「どうせ、ろくなもん食べてないだろうからってママが時々作ってくれるの」

「ろくなもん食ってないのはこいつも同じだと思うけどね。」

矢崎がア然としている達彦を指して言った。

「俺はコンビニの惣菜とかでちゃんと・・・」

「はい」

香織はもう一つお弁当を取り出すと達彦に差し出した

「まさか・・・俺に?」

「元夫へのママの優しい心遣い・・・・よかったね、パパ」

達彦は何も言えなかった。
家族の意味を今一度考えさせられる思いだった。

香織も達彦へのわだかまりは少しづつ消えていた。
何があっても達彦は自分の父親だと思えるようになっていた。


智子が花瓶に花を生けていると佐代子がやってきた。

「まあ、綺麗。お正月用に生けてくれたの?」

「今日はあの人の月命日なのよ。大切に使ってるわ、篠田さんの形見の花バサミ」

「結局引き取ってくれなかったんでしょ?この人のお骨」

「縁を切った人だからって」

篠田の遺骨は引き取り手がなかった。
智子は不憫に思い自分が引き取る事にしたのだった。

「身内なのに冷たいものねえ」

「嫌々引き取られても篠田さん嬉しくないだろうから」

「私が心をこめてご供養する・・・」

「おかしな縁だよ。この花屋さんとあんたも」

「不思議だと思うわ。人と人の縁って・・・」

自分の所へ来て篠田は喜んでくれているだろうか。
襲われた事件もあったが、命を助けてくれた事もあった。
不器用だけど自分を純粋に慕ってくれていた事は認めてあげたかった。

病院の待合室で達彦は誰かを待っていた。
やがて花を抱えてその人はやって来た。

「久しぶり・・・」

「・・・来てくれてありがとう」

久しぶりに会う智子を達彦は落ち着いて迎え入れた。

達彦は智子をある病室に案内した。
カーテンの向こうには眠り続ける人物がいた。

「お花持ってきたわ。綺麗でしょ・・・燿子さんも綺麗」

「お花の香りに誘われて今にも目を覚ましそう・・・」

燿子はあれから植物状態に陥ってしまった。
達彦はずっと燿子に付き添ってきたのだった。


改札を出ると懐かしい風景が広がっていた。
智子はゆっくりとあの場所へ歩いて行った。

夢と希望を抱いて始めた新生活は家族の仮面を剥がしあい、傷つけながら
崩壊へと向かっていった。

何かを信じてあがいたけれど、努力は家と共に崩れてしまった。

智子は最後の角を曲がると、あの家がそのまま建っているのが見えた。
近寄って見上げると横に良介と香織がいた。
反対側には達彦もいた。

決して元に戻れない家族

けれど・・・

あの時間は決して偽りではなかったと思う。
積み重ねた小さな幸せはあのお弁当の写真が証明していた。

ふと気づくと幻は消え、目の前にはただの空き地が広がっていた。
見上げた空の眩しさが智子の目にしみるのだった。


-完-


☆あなたと、あなたの隣にいる人の幸せをお祈りします。☆
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幸せの時間 あらすじ 38話 [幸せの時間 あらすじ 38話]

幸せの時間 あらすじ 38話

「まさか、あんたが離婚するとはねぇ」

智子は実家に来ていた。
バタバタして母・佐代子にはまだ何も話していなかった。
智子はいきさつを佐代子に話して聞かせた。

「ごめんね。なかなか言い出せなくて」

「良かったんじゃない?亭主に愛想つかしてずるずると仮面夫婦続けていくより」

佐代子は特に責めるような事も言わなかった。
自分だってそうしていたかもしれなかった。

「達彦さんだけが悪いわけじゃないから」

「そうなの?」

それに対しては智子は答えにくそうにしていた。

「まあいいわ。聞きたくない。夫婦の間に何があったかなんて、親が知るこっちゃないし」

佐代子は智子の雰囲気を察してそれ以上は聞こうとしなかった。

「どうするの?これから。みどりさんにいつまでもお世話になるわけにはいかないでしょう」

「そうなのよねえ・・・」

実際、あての無い智子はそれもあって実家を訪ねたのだった。

「遠慮しないで来ればいいじゃない、こっちに。部屋はいくらでもあるんだから」

「働き口だって探せばあるでしょ、私と一緒にのんびり暮らしましょ」

佐代子がそう言ってくれて智子は肩の荷が降りたような気がした。
母が許してくれるなら、それが一番ありがたかった。

ただ、それにはもう一つ解決しなければいけない事が残っていた。

広い家の端で佐代子が琴を弾いていた。
智子はテーブルを拭きながら久しぶりにゆっくり流れる時間を感じていた。
台拭きを滑らしながら、ふと左手が目にとまった。

左手の薬指にはまだ結婚指輪がはめられていた。

智子は指輪をジッと眺めその後指から抜き取ろうとした。
指輪はなかなか外れようとはしてくれなかった。

智子の結婚人生の象徴とも言える指輪が、まるで指から離れるのを嫌がっているようだった。
指輪が抜けた時、智子は改めて過去の生活との決別を実感した。

色んな思い出が智子の中を逆流した。
自分は幸せな家庭を作れなかったのだと思うと急に悲しくなった。

すべてを巻き戻して最初から始めたいと本気で思うのだった。

達彦はソファーの上で目を覚ました。

昨夜、絵里子の病院から戻ると燿子の姿がなかった。
連絡が取れないまま朝になってしまっていた。
テーブルの上の携帯には着信も何も入っていなかった。

ふと入り口に目をやるとそこに燿子が立っていた。

「燿子・・・」

「ただいま・・・」

「今までどこへ行ってた」

「住んでたマンションの物を処分しに・・・」

燿子の様子が何となくおかしかったが、達彦は気づかなかった。

「書き置きはないし、電話には出ないし」

「私だって、寝ないで待ってた。一昨日の晩」

「あの日は酔っ払って、同僚の家で眠っちまった。悪かった、もうそんな事しないから」

「遅くなる時は電話するし、ちゃんと燿子のところに帰ってくる」

「約束するよ。生まれてくる赤ちゃんのためにもいい父親になる」

達彦は燿子を受け入れると誓った。
燿子は純粋に自分を愛してくれている。
だから、自分の全てをかけて、燿子とお腹の赤ん坊に全てを捧げようと思っていた。

「ほんと?」

達彦はうなずき燿子のお腹に手を当てようとした。

「この間より大きくなってるな。確実に育ってるんだ」

「本当にいいの?こんな私で・・嫌いになって捨てたりしない?」

燿子は達彦にお腹を触らせようとしなかった。
燿子の言葉には切実な思いが込められていた。

「俺たちは夫婦になるんだ、家族になるんだよ」

「この子の幸せを願って寄り添い合って二人で守っていく・・・そんな夫婦になるんだ」

燿子は複雑だった。
せっかく達彦が約束してくれたというのに、大事な物がもう存在しなかった。

「昨日、役所に離婚届出してきたよ」

「婚姻届は改めて大安の日にでもだしに行こう」

達彦は優しかった。
生まれてくる子は男の子と女の子とどっちがいいかと尋ね、
名前まで考えようと言ってくれた。

「まだ、早いわ・・・」

「早いもんか、燿子が気に入る名前を考えるのは大変そうだかなら」

燿子は始終お腹を触られないように気を配っていた。


燿子が風呂に入ろうとしていると達彦が入ってきた。

「燿子、一緒に入ろう。久しぶりに」

達彦はさっさと服を脱ぎ始めた。

「やめておきましょう、今日は・・・」

「髪を洗ってやるよ。前みたいに」

「本当にいいの。今日はいい」

「・・・どうして?」

燿子は焦った。
一緒に入るわけにはいかなかった。

「あ・・・体調がよくないの、気分が・・ちょっと」

燿子は強引に達彦を廊下に押し出してしまった。

「大丈夫か?」

「・・・ごめんなさい」

燿子はそれだけ言うとドアを閉めてしまった。
達彦はドアの外で呆然と立ち尽くしていた。

達彦はベッドでも優しく抱きしめていてくれた。
今の燿子にとってこんなに辛い事はなかった。
もし、達彦が真実を知ってしまったら、また自分から離れていってしまうかもしれない

それだけは絶対避けなければならなかった。
何とかしなければと思うものの気持ちが焦るばかり。

ベッドを抜け出し、キッチンで薬を飲む燿子の精神は限界に達していた。


ある日の朝
奈津の部屋に智子が訪ねて来ていた。
香織は部屋の隅に小さな机を置いてもらってこちらに背を向けていた。

智子は二人に朝食を作ってやった。

「あっ、うまそう・・・いただきます」

「うふふ・・召し上がれ」

そう言って素直に喜んでくれたのは奈津だった。
出会った頃の二人からは想像できないような光景だった。

「ねえ、香織。一緒に食べない?」

智子は出来るだけ普通に話しかけた。
いつまでもこだわっていては前に進めない。
娘が離れてしまったなら、こちらから歩み寄ればいいと智子は思っていた。

”大切な人が幸せなら、くだらない自分の感情なんてどうでもいい”

香織に中でも色んな想いが交差していた。
香織は複雑そうだったが、食卓に座って智子の作った朝食を食べてくれた。

「香織。ママと一緒におばあちゃん家に引っ越さない?」

「おばあちゃん家?」

「女三代、あなたがお嫁にいくまで3人で暮らそ」

「・・・私、ここに居たい」

奈津の部屋は居心地がよかった。
香織にとって奈津はもう姉そのものだった。

智子と一緒というのも香織にはまだ受け入れ難かった。

「無茶いわないの、これ以上奈津さんと良介に迷惑かけるわけにはいかないでしょ」

「あ、うちだったら大丈夫です。家事とか手伝ってもらって助かってるし」

それは奈津の正直な気持ちだった。
妹ができて、一番喜んでいるのが奈津だった。

「赤ちゃんが生まれたらそうはいかないわ。」

「あなたは高校生なんだから、ママと一緒にいてもらわないと・・・」

そうではなかった。
智子はすぐに言い直した。

「居て欲しいの・・・ママのそばに・・・まだ離れたくないのよ・・ママはそう決めたから」

それは母として子どもと一緒に居たいという純粋な気持ちだった。


智子が帰った後、香織は奈津が描いた智子の絵を眺めていた

「帰っちゃったよママ」

「それ、私の憧れのお母さん像」

「ママが?」

香織は不思議そうにしていた。
奈津は香織を智子に返す決心していた。

「香織ちゃんがうらやましい・・・あんなふうにお母さんに言ってもらえて」

「ママのそばにいてほしい。まだ離れたくないって」

奈津には智子の気持ちも香織の気持ちもよくわかっていた。
二人が一緒にいる事できっと確かな幸せがやって来ると思った。

「うっとおしいんだよ。こっちはとっくに親離れしてるのに」

「だいたい、あんな事されて今更母親面されたって・・・」

香織は素直じゃなかった。
でも、奈津にしてみればどこから見ても本心のようには思えなかった。
少し強めに背中を押してやればきっと智子のもとへ帰るだろうと奈津は思った。

「そう言わずに、今度は香織ちゃんが支えてあげなよ」

「大人が人生やり直すのって、きっとすごくエネルギーが要ると思うんだよね」

「だから、これからのママのために香織ちゃんはそばに居てあげてほしい」

「ママもそういう気持ちを伝えたかったんじゃないかな」

絵の中の智子は今日は優しく香織に微笑みかけていた。


燿子は割れた仮面を接着剤で元に戻そうとしていた。
手に持ち顔の前に持ち上げてみたが仮面は再び剥がれてしまった。

仮面を着けざるを得なくなった燿子はその仮面に拒絶されたようなきがした。

そこへ誰かが訪ねてきた。

「いらしゃい」

「何だかちょっと雰囲気が・・模様替えしたんですね」

燿子が招き入れたのは智子だった。

「住む人が変われば家も変わります。」

「赤ちゃんが生まれてくる頃は、染み付いた古い匂いも全部消えてるわ」

ソファーに座り燿子は仮面の下に素顔を隠し飄々と言ってのけた。

「あの、高村さん。主人から聞いてると思うけど、この家には欠陥があって・・・」

「主人じゃありません。離婚届をだしたんです。達彦さんは私の夫です」

燿子は勝ち誇ったように言った。
家の欠陥の事は耳に届いていなかった。

「そう。出してくれたのね、離婚届」

「おめでとうございます。心からお二人の幸せを祈ってます」

燿子にはそれが負け惜しみにしか聞こえなかった。
智子が平然としていることが燿子には気に入らなかった。

智子は新生活のため残っている荷物を取りに来たのだった。
燿子に断りをいれ智子はキッチンに入っていった。

自分が愛用していたキッチンが他人の物になっているのを見ると
なにかやるせない気持ちになった。

それでも智子は気をとり直し荷物の確認をしにキッチンに立った。

そこで智子は燿子の服用している薬を発見した。

「高村さん、このお薬産婦人科の先生に相談した?」

「なにやってるの!勝手にかき回さないでよ!ここは私の家よ!」

慌てて燿子が駆け寄ってきて智子の持った薬をひったくった。
その時、燿子のお腹が智子に当たってしまった。

その感触がおかしいことに智子はすぐに感づいてしまった。

「あなた・・・」

「帰って・・・出てってよ!私の家から!今すぐ出てって!」

燿子は取り乱して智子を追いだそうとした。
智子は何かを思いながらそのまま外へ出ていった。

その様子を庭で伺っている人物がいた。

「毒の花・・・咲くか・・・枯れるか・・・」

篠田は全てが終わろうとしている事をどこかで感じとっていた。

自分が無関係ではいられない事をこの時はまだ知らなかった。



夜。
達彦と燿子はリビングにいた。

「学生時代の友達が不動産会社の社長やってて、俺の経歴聞いて採用したいって」

「ダメ元で電話したんだが、丁度タイミングがよかったんだな」

燿子は隣で洗濯物をたたんでいたが表情が暗かった。

「明日、条件面で話してくる。その後一杯やらないかって言われてるから」

「帰り、ちょっと行ってくるね」

黙って何も言わない燿子を達彦は機嫌が悪いのかと思った。

「あ、でも出来るだけ早く帰ってくるから。燿子と赤ちゃんが待ってるからな」

「パパこれから目一杯頑張ってくるからな。お前も応援してくれよ!」

達彦がそう言って燿子のお腹に触ろうとした時

「触らないで!」

燿子が大声で叫んで達彦を拒絶した。

「どうしたんだ燿子・・・」

燿子は明らかに動揺していた。

「妊娠中なんだから多少気が立つのはわかるよ」

「でもな、家庭を大切にするには仕事をして収入を得なきゃならないんだ」

仕事より家庭が大事だと言った燿子に達彦は事態をわかるように説明した。
まるで子供に説明しているようだった。

「燿子と赤ちゃんの幸せを願ってのことなんだよ」

「ごめんなさい・・・ほんとにごめんなさい」

「わかってくれれば、それでいいよ」

燿子は謝ってくれた。
しかし燿子が謝ったのは達彦の仕事の事だけではなかった。

どうしても達彦に告げられない燿子だった。

燿子の焦りは頂点に達していた。

「どうしよう・・・どうしようどうしよう!」

燿子は流産していた。
燿子の中の悪魔は自分が子供を産む事を拒んだのだった。

薬の量も度を超えていき、どうしても流産したことを達彦に言えない燿子は
とうとうとんでもない行動にでてしまった。


良介は家の建築現場で見習いに入っていた。
先輩職人の仕事を手伝いながら一生懸命修行していた。

「おい、良介!」

「はい!」

「お前にお客さんだぞ」

「俺にですか?」

棟梁が来て良介に来客を伝えた。
良介は現場を離れ訪ねて来た客を見て驚いた。

「何の用だよ、あんたが俺に・・・」

それは燿子だった。

「あなたに相談したい事があって」

「相談・・・?」

燿子は良介を浅倉家の長男として頼みを聞いて欲しいと言った。

「私を救ってくれる人はあなたしか・・・」

燿子はそう言って横にあった建設用木材に座ろうとした

「やめてくれ!」

良介は思わず燿子を突き飛ばしてしまった。

「あ・・おなかが・・・」

お腹を押さえる燿子に良介はしまったと思った。

「おい、どうした?何やってんだ良介」

棟梁が心配して見に来てくれた。

「なんでもありません。良介君・・・手を貸して」

燿子は良介の前に手を差し出した。
良介は疑惑の目を燿子にむけた。


良介は燿子を家まで送ってきた。

「ありがとう良介君、もう大丈夫」

「本当に大丈夫なんだね?・・・もしお腹の子に何かあったら俺・・・」

「優しいのね・・・今、冷たいものを」

燿子は良介の手を離れて言った。
まるで何もなかったような動きだった。

「あ、いや、俺もう帰るから」

「そんな事言わないで、良介君にしか解決出来ない悩み、相談にのって」

良介は仕方なくソファーに腰をおろした。
燿子はグラスにジュースを入れるとそこへ別の液体を流し込んだ。

「なんですか・・・相談って」

「うん、あ、この家の事なんだけど」

「だから何ですか・・・」

燿子は何も答えず、持ってきたグラスを良介の前に置いた。
良介は何の疑いも持たずグラスを口に運んだ。

暫く間をおいて、燿子は良介の横に座り直した。

「これまでの事、許してもらえるなんて思ってないわ」

良介は燿子から少し離れて座り直した。

「あなた達兄妹、お母さんみんなにつらい想いさせて、私なんか幸せになれるわけない」

「今更そんな事言ったって・・・」

「なんて事してしまったのかしら・・私」

燿子が良介の方へ振り向いた。
良介は目の前に迫ってきた燿子の胸にドキッとしてしまった。

なぜだか、男としての欲望が急に湧いてくるのだった。

「この家にいると、あなた達が楽しげに笑う声が聞こえてくるの」

そう言って燿子が少し良介に近づいた。

「その度に私が犯した罪の重さに打ちのめされて、許して良介君、ごめんなさい」

良介は燿子の胸ばかり気になっていた。
何かが体の芯からこみ上げてくる。
自分でも一体どうなっているのかわからなかった。

「許してくれる?」

「あ、あの、親父がいるんだから、そういう事は親父に・・・」

良介は必死に耐えていた。

「あの人は今仕事探しで手一杯だもの」

「私とこの子のために必死になってくれてるのに勝手な感情ぶつけて邪魔するなんて」

良介はもう平静ではなくなっていた。

「あ、俺・・・なんだか」

良介は立ち上がって窓の方へ移動した。

「良介君は私が嫌い?憎んでる?私の事」

「それは・・・」

燿子が挑発し始めた。

「嘘でもいいから好きって言って、そうすれば私救われるから」

「ああ、言って、好きって・・・私をこのくるしみから救って」

燿子は達彦の胸に飛び込んで抱きついた。
良介は息を荒くしていた。

「何やってるの・・・高村さん、あなた良介になんてことを!」

やってきたのは智子だった。

「勝手に入ってこないでよ!」

燿子は邪魔をされて怒っていた。

「破廉恥な!良介、あなたいったいどういうつもりで?!」

「わからない・・・何だか体が熱くなって何も考えられなくなって・・・」

「・・・ええ?」

智子は良介が普通でないと感じるとテーブルのグラスに目をつけた。

「まさか・・・そのジュースに何か・・・」

「何か入れたの?変なもの」

智子は燿子を睨みつけ問いただした。

「こんなに効くとは思わなかったわ。きっとこの子感度がいいのね」

燿子の頬に智子の平手が飛んだ。

「何をするのよ!私は妊婦なのよ!」

「本当に妊娠してるの?ずれてるわよ、お腹の詰め物」

燿子は何も言えずお腹をさすっていた。

「嘘だったのね・・妊娠なんて。」

「嘘じゃないわ!ちゃんと授かったのよ!計画通りにパパの子を・・・なのに」

燿子の頭にはあの悲劇の腹痛が蘇ってきた。

「流産を・・・?」

流産は智子にとっても意外だった。

「やっとパパが私と寄り添って、赤ちゃんを幸せにするって」

「いいパパになるって、約束してくれたのに」

「なんで赤ちゃんを取り上げなきゃいけないの!・・・何で!」

燿子はとうとう全てを話す事になってしまった。

「それで、そのままお腹に赤ちゃんがいるフリを?」

「赤ちゃんしかないの、あの人の心を繋ぎ止めておくためには、赤ちゃんがいるのよ!」

「ほしいの、赤ちゃんが・・・お願い私に赤ちゃんをちょうだい、パパに知られる前に」

燿子は良介に歩み寄りながら、ワンピースを脱ぎはじめた。

「そのために、俺を・・・」

「良介君の子供だったらパパの子と同じだもの・・・早く!」

そう言って燿子は良介に飛びついた。
二人はよろけて窓にぶつかってしまった。

その時家が大きな悲鳴をあげた。

いつもにも増して大きな揺れはまるで燿子の心に呼応するかのようだった。

揺れが収まって智子が顔を上げると入り口に達彦が立っていた。

「あなた・・・」

燿子が振り返った。

「パパ・・・」

達彦は呆然と立ち尽くしていた。

家がまた悲鳴をあげ始めていた。
それは物語のエピローグ奏でる悪魔の葬送曲だった。

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幸せの時間 あらすじ 37話 [幸せの時間 あらすじ 37話]

幸せの時間 あらすじ 37話

晨宋建設の社長が自殺し、億単位の金が未来クリエーションに流れたという
報道えを受け、達彦は務めていた会社に呼ばれていた。

「億単位の金を受け取ったのは、あなたですか?」

「冗談じゃない、私が社長から受け取ったのは200万だ。誰が億なんて金」

達彦は総務の野口の言葉を否定した。

「古河社長が遺書を残しているらしい。そこに裏取引の詳細が記されているという噂です」

「今とぼけても、それが明らかになれば・・・」

「だから、俺じゃない!その事はちゃんと楠田常務に・・」

達彦は再度否定し楠田の方を見た。
楠田は黙ってあらぬ方を見つめていた。

「常務・・・?」

達彦の呼びかけに楠田は反応したが、相変わらず黙って下を向いている。

「まさか・・・常務が?」

「創業当初から、晨宋建設あっての未来クリエーションだった」

楠田は重い口を少しづつ開き始めた。

「一心同体だったんだ。古河さんと私は・・・」

「じゃあ、晨宋とはずっと癒着を?」

野口が楠田に問いかけた。

「しかし、常務は私に晨宋の手抜きを洗い出せと」

「騒ぎを抑えこむための逆療法、少し金をやって丸め込んでおけ」

「古河さんにそう指示した」

達彦はア然となった。

「それじゃあ、俺はまんまと嵌められて・・・」

「200万を受け取ったために・・・あんたの保身のために俺は・・・」

「遺書が世に出たら私は破滅だ・・この会社も破滅だ」

「なんだって古河さんは自殺なんか・・・」

「あんたが殺したようなもんじゃないか!」

達彦は楠田の襟を掴み揺さぶりながら怒鳴った。

「こんな会社のために俺は今まで命を削って・・・何だったんだ!俺の20年間!」

会社を信じ一生懸命勤めてきた会社は自分を騙し、あらぬ罪をかぶせようとした。
やりきれない怒りをどこへもぶつけられない達彦だった。


良介が矢崎の所へやってきた。

「おお、どうした良介」

「香織から伝言頼まれて」

「香織ちゃんから?何だ?改まって・・・まあ、入れよ」

「お邪魔します」

矢崎に招き入れられ、部屋に入って良介は驚いた。

部屋の隅で寝ていたのは達彦だった。

「・・・親父?」

「ああ、家に帰れないんだと」

「みっともない。一人が寂しくておじさんに泣きついたのかよ・・・」

「いや、一人じゃなくて、居るんだってよ・・・これが」

矢崎は自分のお腹の前でグルッと輪を描いて妊婦の格好をしてみせた。

「高村燿子が・・・?さすが、やること早いわ、このおっさん」

良介は達彦が好きで燿子をあの家に入れたと思っていた。

「喜んで引っ張りこんだなら、いそいそ家に帰るだろうよ・・こんなとこ来ねえでよ」

「なあ、良介。お前たちの気持ちわからない訳じゃないよ」

「でもな、こいつだって色々苦労してんだよ。大人の男として必死にもがいてんだよ」

「もうちょっと、優しい目で見てやってくんねえか・・・」

「お前たちを裏切ったのは事実だけど、一方で家族を大切に思ってる」

「人間て、そんな矛盾したとこ、あるんじゃないのか?」

矢崎は少しでも達彦の事をわかってもらおうと良介を諭してみた。

「俺は嫌だ!そんな都合のいい話」

良介は簡単に受け入れてくれそうになかった。
矢崎は晨宋建設の社長が自殺した話を良介にした。

晨宋建設が手抜き工事をしてアザレアニュータウンを作った事。
達彦はそれに気づかず家を売ってきた事を良介に話した。

「自分が売ってる商品の欠陥に気づかないなんて・・・」

良介はどうしても達彦を認めないつもりだった。

「確かに甘い・・・とんでもなく甘い。だがな、そこがこいつのいいとこなんだと思うんだ」

「俺は会社なんてこれっぽっちも信じてない。でもこいつは信じた」

「徹底的に惚れ込んで信じきって夢を売るつもりで、家を売ってたんだ」

「・・・フッ、バカな奴」

「そうだな・・・大馬鹿野郎だ・・・」

良介は思った。
達彦もきっと誰かの幸せを願っていたに違いない。
家族を不幸にしたくて不倫したわけじゃなかったのだろう、と。

そう思うと何だか少し達彦が可哀想に思える良介だった。

「それでどうなるの?この人・・・裁判で欠陥住宅を売った責任追及されるの?」

「親父さんが会社の操り人形に過ぎなかった事は、いずれハッキリするだろう・・・」

「・・・操り人形」

「はあ、悲しいよなあ・・・惚れ込んだ相手にいいように使われてただけなんて」

達彦を見ながら矢崎の話に何かを思う良介だった。

「あ、で?香織ちゃんの伝言っていうのは?」

気をとり直したように矢崎は良介に訊いた。


病院の待合室で香織がヤキモキしていた。

「遅いなおじさん・・・何やってんだろ?」

「おばさん、横になってなくて大丈夫かな」


病室に戻りかけた香織に誰かが声をかけてきた。

「大丈夫よ・・・先生が見てくださってるから」

智子だった。
香織は智子を見ると、プイと横を向いてそこにあった長椅子に腰掛けた。

「絵里子さんも落ち着いてるお化粧するの久しぶりだって、嬉しそう」

香織はやっぱり横を向いたままだった。

「ごめんね、香織。わたしのせいでバイオリンを聞きたいっていう絵里子さんの願い」

「叶えられなくなってしまって・・・」

「私があなたからバイオリンを奪ってしまったのね・・・」

香織は自分のバイオリンが不倫の口実にされたのだと思っていた。
レッスンに来ていたのは智子に会うためだったと思っていた。
そんな人達に習ったバイオリンなど弾く気にもならなかった。

それが精一杯の香織の抗議の形だった。
でも・・・

「おう、香織ちゃん。お待たせ」

エレベーターのドアが開くと矢崎が出てきた。

「おじさん、遅い・・・」

「・・・!」

香織は矢崎について出てきた人物を見て驚いた。

「あなた・・・」

後ろで智子が先に口を開いた。
矢崎が一緒に連れてきたのは達彦だった。

「おじさん、何で連れてきたのよ、こんな人」

「いや、たまたま俺んちに泊まってたから、一緒に絵里子を見舞ってやってくれって」

矢崎は何があるかはわからなかったが、香織がいる事だけはわかっていた。
だから、強引に達彦を連れてきたのだった。

達彦は後ろで借りてきた猫のようにおとなしく立っているだけだった。

「あ、奥さん。まさか智子さんまで来てるとは」

矢崎はその先の言葉は言わずにおいた。
矢崎は香織に向き直り

「ご要望どおりジャケット着用で来たよ。何なんだよ。今日は?」

香織はそのまま、矢崎を絵里子のところへ連れて行った。

扉を開けるとそこには今までで一番綺麗な妻が座っていた。

「・・・絵里子」

「あなた・・・」

「どうです?ご主人、奥様とってもお綺麗でしょ?」

ア然とする矢崎の胸にに香織は花をつけてあげた。

「そばへ行ってあげて」

「ああ・・・」

香織に促されて矢崎は絵里子のそばへ行った。

パン!パーン!

「おめでとう!!」

クラッカーの音が部屋いっぱいに響くとめいめいが二人を祝福した。

「俺、ビックリしちゃって、どうしていいか」

「香織ちゃんよ・・・香織ちゃんが私たちのために計画してくれたの」

矢崎が絵里子の隣に座ると良介が何かを持って入ってきた。

「おめでとうございます」

「きたきた、ジャストタイミングお兄ちゃん」

「ギリギリを見計らって出来立てホカホカを作ってもらいました」

良介は持ってきた皿をテーブルに置くとフタを取ってみせた。

「あ、オムライス・・・」

絵里子の表情が明るくなった。

「・・これ、ひょっとしてあの店の?」

「おじさんとおばさんの思い出のオムライス」

香織が頷いてそう言った。

「香織のアイディア、ウェディングケーキの代わりにって」

「食べさせてあげてください。奥様に」

良介が補足し、奈津がリボンのついたスプーンを矢崎に渡した。
矢崎はオムライスをスプーンですくうと絵里子に食べさせるのだった。

「今度はおばさんの番」

香織に言われて今度は絵里子が矢崎に食べさせてあげた。
絵里子のすくった一口は大きすぎて矢崎は口に入れるのに難儀していた。

幸せそうな二人を見て香織はフッと思った。
絵里子のためにバイオリンを弾こうか・・・

ゆっくり悩んでいる時間などなかったが
それでも香織は決断すると、急いで病室を飛び出していった。

そんな香織を智子がジッとみているのだった。



香織は家に戻ると大急ぎで自分の部屋にあがった。
達彦が帰ってこなくて寝室で塞ぎ込んでいた燿子が物音に気がついた

「パパ・・帰ってきてくれたの?パパ!パパ!」

寝室から出たところでバイオリンを持った香織と燿子がはち合わせした。

「何やってるの?勝手に上がり込んで」

「本当だったんですね?あなたがもうこの家に住んでるって」

「ここは私とパパの愛の棲家よ」

「押しかけてきたんでしょ?あなたが勝手に・・・相変わらずなんですね」

「どういう意味?」

「相変わらず独りよがりの愛情をパパに押し付けてるって意味です。」

「私はパパに愛されてる・・・愛されてるからこの子を授かったんじゃない」

「そう思ってるならそれでいいですけど」

燿子に構っている暇はなかった。
急いで絵里子の所へ戻らなけばいけなかった。
香織は燿子の横をすり抜けようとした。

「待ちなさい」

「放してください。急いでるんです」

燿子は香織の腕を掴んで引き止めた。

「どうするの?そのバイオリン・・弾くの?」

「柳先生とママがちちくりあって教えてくれた楽器、平気で弾けるんだ」

「可愛い顔して案外ずぶといのね・・・」

独りよがりのと言われて燿子は智子と柳の事を持ちだした。

「聞きたいっていう人がいるんです」

「その人が望むならそんなくだらない事どうだっていい」

「その人のために心をこめて一生懸命弾く。私がするべきは、それだけです」

香織は燿子は本当に人を愛してはいないと言った。
愛とは自分を顧みず相手の幸せだけを願うものだと言った。
燿子の愛は自分の幸せを願うだけのものだと言った。

絵里子と矢崎は自由で暖かい。
香織はあれこそが愛だと言った。

「おばさんが待ってる。行かなくちゃ」

香織は急いで絵里子のもとへ向かった。

「愛してる!私だってパパを愛してる!私のどこがいけないって言うのよ!」

燿子は必死に香織の言葉を否定しようとしていた。


絵里子の病室ではまだ二人の結婚式が続いていた。

智子は額に入った写真を見つめていた。
そこには香織を挟んで矢崎と絵里子が写っていた。

それはどう見ても幸せな家族の写真だった。
香織の隣にいるのが自分でない事に胸を痛める智子だった。

「はい、チーズ、お、いいの撮れた」

良介が二人の写真を撮っていた。

「大丈夫か?疲れてないか?」

「うん。いつまでも・・・こうして・・・いたい」

絵里子は矢崎に体を預けて笑っていた。

「矢崎さん、そろそろ。あまり時間が長くなると・・・」

医師が来てそろそろ終わりにして欲しいと告げた。

「えー皆さん。今日は本当にありがとうございました」

矢崎が皆にお礼の挨拶を始めた。
香織はまだ戻ってきていなかった。

矢崎は絵里子との生活を話はじめた。
苦労ばかりかけてきたのに一度も怒った事がなかったと言った。
酒、女、ギャンブル、どんな事をしても絵里子は笑って許して受け止めてくれたと。

「絵里子が言ってくれたんです」

「金を返すためにあくせくいきてるより、あなたが自分らしく生きるほうが大切だって」

「貧乏で贅沢のひとつも出来ないけれど、不幸と思った事は一度もない」

「あなたが暗い顔して帰って来るほうがずっと辛いって」

矢崎がそこまで話したとき不意にバイオリンの音色が聞こえてきた。
香織が戻ってきてバイオリンを弾き始めたのだった。

「香織ちゃん・・・」

「・・・・かおりちゃん・・・」

香織の弾くアヴェ・マリアは矢崎と絵里子の心に深く響きわたった。

矢崎は感極まって泣き始めてしまった。
絵里子は矢崎にもたれたまま、静かに微笑んでいた。

「俺、この人に教わったんです」

「愛はひたすら相手の幸せを願って、そっと寄り添う事だと」

絵里子は泣き崩れそうになる矢崎をそっと手を添えてなだめてくれた。

「絵里子・・・愛してる」

「・・・あいして・・る」

絵里子は力を振り絞って答えていた。

言葉にすることに意味があるのかどうかはわからなかったが、
今は言葉にすることが最高の愛情表現だと思った。

二人が確実に愛しあっている事は誓いの口づけが証明していた。

ジッと見守っていた達彦も智子も絵里子に何かを教わった気がした。

時間をかけすぎたかもしれない。
絵里子の腕から力が抜けた。

「絵里子?」

絵里子は気を失ったようだった。

「絵里子さん?!」

達彦が駆け寄った、良介が大声で医師を呼んでいた。

「とりあえずベッドへ」

達彦が絵里子を抱えようとした時、絵里子の意識が戻ってきた。

「お願い・・・どうか・・・このまま・・・香織ちゃん・・・聞かせて・・最後まで・・」

香織は演奏を続けた。

異常を聞きつけて医師がやってきた。

「先生、すいません。どうかこのままで」

状況を察してか医師は黙って見守っていた。

「ありがとう・・・香織ちゃん・・・幸せを・・・ありがとう」

絵里子は薄れていく意識を振り絞って香織に礼を言った。

香織の後をつけてきたのか燿子が入り口で成り行きを見ていた。
そして何かを振り切るようにその場を去っていった。

香織の奏でるメロディーと皆が見守る中、絵里子は神の手に抱かれ天に登っていった。

「絵里子・・・」

絵里子は花嫁姿のまま寝かされ胸にブーケを抱えていた。
矢崎はただただ妻の名を呼ぶだけだった。

「二人にしてやろう」

達彦がそう言うと皆外へ出ようとした。
ただ、香織は絵里子のそばを離れようとはしなかった。

「・・・香織?」

声をかけた達彦を智子が遮った。

「3人は一つの絆で結ばれてるの、あの子も家族なのよ」

智子の言葉に達彦も何かを悟り、そのまま部屋をでていくのだった。


香織を除く朝倉家の家族が待合室にいた。
良介の隣には奈津がいた。

「血が繋がってれば家族だって、当たり前のように思ってたけど」

「本当の家族って気持ちが繋がっている人の事を言うんだな」

「奈津ちゃん、俺達もそういう家族になろうな」

しみじみと言う良介に奈津はウンウンと小さく頷くのだった。

「親父はどうするの?もうあの女と暮らしてるんだろ?」

「そうだったの?ちゃんと愛してあげてね、燿子さんを」

良介の問に智子が合わせて聞き返してきた。

「あの人、ずっと悲鳴をあげてたのよ、愛して・・もっと私を愛してって」

「これからは、その想いにしっかり答えてあげて」

それから達彦がポツポツと話し始めた。

「あいつ・・・いきなりウェディングドレス着て俺の目の前に現れた・・・正直怖かった」

「でもな、今日絵里子さんの花嫁姿を見て思った」

「確かに燿子のやってる事は普通じゃない」

「でも、純粋な気持ちは燿子も絵里子さんと変わりないって・・・」

それから智子の方を振り向き言った

「ちゃんと受け止めるよ、あの子の気持ち」

智子は黙って頷いていた。


燿子はキッチンでボーッとしていた。昼間見た光景が目に焼き付いていた。
何かを思い出したようにキッチンを離れようとした時、床から大きく軋む音がした。

それに呼応するかのように家が揺れ、どこかでまた柱が倒れたような音がした。
揺れが収まりリビングに移動しようとした時・・・

燿子はお腹に異様な痛みを覚えた。

「痛!・・・痛い!!」

痛みに驚き床に座り込んだ燿子はテーブルの携帯を取ろうとして異常にきがついた。

足の内側をなま暖かい液体が伝い、床を真っ赤に染めていった。

「赤ちゃんが・・・!私の赤ちゃんが!」

略奪した愛には悲惨な結果が待っていた。
燿子の中に住む悪魔はとうとう自分に向かって牙をむきはじめていた。
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幸せの時間 あらすじ 36話 [幸せの時間 あらすじ 36話]

幸せの時間 あらすじ 36話

家の奥から達彦を出迎えたのは燿子だった。

「どういう事だ・・・どうやってうちに・・・」

「ちゃんと鍵を開けて入ったに決まってるじゃない・・・自分のうちだもの」

燿子は鍵を取り出して達彦に見せた。

「・・・何で・・?」

それが良介が捨てた鍵である事など達彦にわかるわけがなかった。

「ありがとうパパ。こんなに早く私と赤ちゃんを迎え入れてくれて」

「さあ、来て。早く」

燿子は足元がおぼつかない達彦を急かし、リビングに連れていった。
そこには数十本のロウソクが飾られ、食卓にはメモリアルキャンドル、
ソファー前のテーブルにはケーキが置かれていた。

それは燿子が用意した二人の結婚式の式場だった。

燿子がリモコンを操作すると結婚行進曲が流れだした。

「待ち遠しかったわ、今日が来るのが」

「あなたが私だけの物になり、私があなただけの物になる」

「出会ってから毎日毎晩、この日を夢見てた」

燿子は達彦を引っ張ってソファーまで歩き、そこへ腰掛けた。

「指輪の交換をしましょう」

「指輪・・・?」

燿子は不思議そうに訊く達彦の右手を掴むとその人差し指に小さなナイフをあてた。

「・・おい・・何を!・・痛!」

「静かにして・・・これは神聖な儀式なのよ」

燿子はためらうことなくナイフを引いた。
達彦の指先から血が浮き上がった。

燿子はその血を自分の左手の薬指にぐるっと塗りつけた。

「今度は私からあなたへ」

燿子はそう言って今度は自分の人差し指を切ると達彦の薬指に血の指輪を作った。

「これで私達、永遠に一緒ね」

「・・・狂喜の沙汰だ」

燿子は満足そうだった。
あまりの事に達彦は呆然としていた。

「キスして、誓いのキス」

達彦は放心したまま燿子の言うとおりにした。
燿子は結婚式の式次第を順調にこなしていった。

「次はケーキ入刀、晴れて夫婦になった二人の初めての共同作業」

燿子は達彦の手を取り目の前のケーキにナイフを入れようとした。
そこで達彦はケーキの横に置かれた書類に気がついた。

「・・・これは・・・」

「結婚式が済んだら手続きしましょうね、パパ」

それは婚姻届だった。
既に達彦の名前も書かれていた。

寝室も燿子の手が入っていた。
智子がいた頃の清潔なイメージから赤の派手なシーツに変わっていた。

「全部入れ替えたの、カーテンもシーツも。この写真も」

「ガラスが割れてたでしょ、だから新しくしたの。今日からここが私たちの愛の巣ね」

燿子が差し出した写真は元は達彦と智子が写った結婚写真だった。
今は智子だけが破りちぎられ、そこに燿子の写真が重ねられていた。

「クックックッ・・・」

「どうしたの?」

急に笑い出す達彦に燿子は不思議そうに訪ねた。

「何もかも見放されたと思ったら、残ってた物がひとつだけあったか」

「これが、新しい俺の人生か・・・」

「そうよ、あなたと私と生まれてくる赤ちゃんと、幸せになりましょうね。パパ」

それは地に落ちた男にふさわしい物だと思った。
燿子はあくまで幸せになれると信じているようだった。

「そうもいかないんだよ。俺は落ちこぼれだ、会社からはじき出された。明日から失業者だ」

「バカな会社。あなたみたいな優秀な人を放り出すなんて」

「あなたはここで終わる人じゃない、これからよ」

達彦が失業したというのに燿子に達彦は呆れていた。

「おめでたい女だな」

「幸せだもの。これまで生きてきた中で今日が一番幸せだもの・・・」

「愛して・・・赤ちゃんと一緒に、3人でひとつになりましょう。・・・来て、パパ」

燿子はその身をベッドに横たえた。

「運命か・・・これが・・俺が招いた運命か・・・」

「そうよ。運命の神様が決めた事なの」

達彦は憎しみの目で燿子を見据え、ならばトコトン落ちてやろうと燿子にしがみついた。

床の隅で破られた写真に写った智子はなぜか悲しそうに見えた。


香織は病院の待合室で矢崎をまっていた。
エレベーターのドアが開くと矢崎が飛び出してきた。

「おじさん!」

「あ、絵里子は?・・・まさか」

矢崎と香織は絵里子の病室にあがった。
絵里子はマスクをつけたまま昏睡していた。

「私が来た時は意識が混濁してて、お医者さんはいつどうなってもおかしくないって」

「どうして、すぐ電話しなかったんだ」

「しようと思ったけど怖くなって」

絵里子は以前から最後は必ず矢崎に看取ってもらうと言っていた。
香織は矢崎の顔を見たら絵里子は安心して死んでしまうのではないかと心配していた。

矢崎は香織もまた自分と同じ気持でいてくれる事が嬉しかった。

「俺、今夜親父さんと一緒だったんだよ」

「パパと?やめて、あんな人の話」

「偉そうな事言っちまった・・・女はみんな死ぬまでお姫様」

「俺がどれだけこいつを幸せにしてやれたって言うんだよ」

「不甲斐ない男でごめんな、幸せにしてやれなくてごめんな」

達彦はあんな男だがそれでも家族を幸せにしようと一生懸命だった。
自分はなにも出来ず、絵里子に苦労ばかりかけてきた。

病気もなおしてやれない自分がトコトン情けなかった。

幸いな事にその後絵里子はなんとか意識を回復した。

「意識戻ったんだ。絵里子さん、良かった」

香織は奈津の部屋に帰ってきた。

「学校、休んじゃおうかな・・・」

「寝てないんんでしょ?休んじゃえ。私がママのフリして電話してあげるよ」

「マジで?さすが奈津さん」

少し前までは一人で寂しかったこの部屋も良介や香織が出入りするようになって
あかるくなった。

奈津は自分を頼ってくれる人がいる事がなにより嬉しかった。

「あれ?結婚情報誌」

「ああ、貰ったの。産科で一緒のママさんに」

「結婚式するの?」

「まさか、お金使って式なんか挙げるつもり私も良介もないし」

「今はそんな悠長な事言ってる場合じゃないっしょ」

奈津は話しながら香織の方を見た。
香織は何やら考えこんでいるようだった。

「どうしたの?」

「・・・結婚式・・・結婚式か・・・」

香織はなにか思いついたようだった。


夕食は智子が作った。

「最高!毎日こんなにうまい料理で晩酌できたら極楽だわ」

みどりは異様に感激していた。

「だんだん言ってくれなくなるのよね、毎日食べてると」

「私は褒める、褒めまくる。だからこのまま私の嫁になっちゃえば?」

「フフ・・何それ」

「ここに居てくれて炊事洗濯受け持ってくれたらその分援助するよ」

みどりの気持ちは嬉しかった。
でもなにかおかしかった。

「みどり、あのさ・・・ご主人と何かあった?長期の出張って本当?」

「この家、男の人の気配が無いっていうか、ご主人の物全然置いてないし」

「前はお揃いのマグカップがあったり、お箸があって・・・」

そこまで言われてみどりは白状するしか無くなっていた。

「実を言うと・・逃げられちゃったんだよね。」

「逃げられた?」

「好きな相手ができてその人と一緒に暮らしたいって」

智子には初耳だった。
みどりの話によると、12月に出ていったらしい。
クリスマスディナーに二人で行く予定だったのが旦那が出ていってしまって不要になったのだ
あの招待券にはそんな訳があったのだった。



智子は自分だけが辛い思いをしていたと思っていたが、
同じ頃みどりも苦しんでいたのだった。

それでもみどりは駆けつけてくれた。
本当にありがたいと智子は思った。

ただ、驚いたことにみどりの旦那が一緒に住みたいと言った相手は男性だった。

「そういう友達は何人かいるけど、まさか自分の夫だった人がねえ・・・」

「みどり・・・」

「意外に冷静だね。智子は潔癖症だからこんな話したら悲鳴上げるんじゃないかと思ってた」

「そんなこと・・・ただみどりがどんな気持ちだったかって」

「そりゃもう・・・飲み込むしかないでしょ。この場合」

みどりはあっけらかんと言い、缶ビールのタブを引き上げた。
気丈にしているみどりだが、相当な葛藤があったに違いないと智子は思った。

「世の中にはいろんな愛があるってことよね・・・」

「男が好きな男がいても何の不思議もないのかも・・・」

そう思えば、篠田や燿子の愛し方も特別ではないのかもと、智子は思った。

「じゃあさ・・・女と女は?」

「えっ?」

「私、あんたの事ずっと好きだったんだよね」

いきなりな言葉に智子はまさかと思った。

「でも、誤解しないで。そういう関係になりたいっていうわけじゃないから」

「なんか高校生の頃から他の女友達とは全然違う感じで、もうスペシャルで好きだった」

みどりは自分が達彦と寝てしまったのは智子が認めた相手を
自分も知りたかったのかもしれないと言った

「ごめんね。変な話蒸し返しちゃって」

「私もずっと好きだったよ、みどりの事。たぶん、どの女友達よりも全然スペシャルにね」

おかしくなって二人で笑った。
智子は自分がこんな事を言えるようになった事が自分でもしんじられなかった。

玄関のチャイムが鳴った。

「誰だろ・・・こんな時間に」

みどりは玄関に応対に出ていった。
ドアが閉まる音がするとすぐにみどりは戻ってきた。

「智子、お客さん」

みどりの後から入ってきたのは香織だった。

「香織、来てくれたの?」

「ママじゃない、みどりさんに相談があって来たんです」

智子はてっきり自分に会いに来てくれたんだと思った。
ちょっとがっかりする智子だった。


朝、燿子は家の前を掃除していた。
道行く人に声をかけ、一生懸命主婦を演じていた。
少し離れたところから家を振り返り満足そうに眺めていた。


良介は今日も近くの家の建築現場に来ていた。
職人たちが忙しく動くのを見ながら何かを思うのだった。

「あのう!」

「何だ、またお前か」

棟梁が良介を見つけて答えてくれた。

「俺、浅倉良介と言います」

良介は何を思ったかそれから自分の身上を話し始めた。

「お前、何言ってんだ?」

棟梁はいきなり名乗られて何の事かわからないようだった。
それは良介の履歴書だった。

「あの、仕込んでもらえないでしょうか、俺を」

「ああ?」

「私に大工の修行をさせてください。お願いします!」

良介はその現場の棟梁に深々と頭を下げた。

家に翻弄されてきた良介は決意していた。
自分の家族が安心して暮らせる家を自分で建てようと。

それが何かの証になると思っていた。


「お花くださいな」

その声に篠田は顔を上げたが、表情が緩む事はなかった。

「私、新婚なんです。アザレアニュータウンの浅倉っていう家にお嫁に来たんです」

「私とパパの愛の城、綺麗なお花でいっぱい飾りたくて」

「あんたに売る花は無い」

篠田は冷たく言い放った。

「バカ言うな、花を売るのが仕事でしょ?」

「あの庭もパッとしないから、私のイメージに合わせて全部植え替えて」

それでも篠田は応じなかった。

「もうあの家を花で飾る必要は無い。毒の花が一輪あれば充分だ」

「毒の花?」

「あんたの事だよ。あの家にはあんたという毒の花が咲いちまったのさ」

燿子は家に戻ると智子が立っていたキッチンで大声をあげていた。

「篠田めぇぇ!!」

その勢いでまな板の上の魚をぶつ切りにしていた。


香織は絵里子の主治医に相談を持ちかけていた。
みどりと智子が一緒についてきていた。

「結婚式・・・ですか?」

医師は不思議そうに聞いていた。

「絵里子さんに最後の思い出を作ってあげたいんです」

「矢崎のおじさんに絵里子おばさんの幸せな顔見せてあげたいんです」

難色を示す医師に智子も一緒に頼み込もうとした。

「娘のお二人に対する精一杯の気持ちなんです。何とか・・・」

「私の気持ちは私が話すから」

香織は智子が口を挟むのを許さなかった。
その様子を見てみどりが話に加わった。

「あの、結婚式と言ってもドレスを着て身近な人にお披露目する程度ですから」

「しかし、ご承知のとおり、矢崎絵里子さんはもう限界を超えた状態で」

「無理をすれば残り少ない時間がさらに・・・」

医師はやはり許可してくれそうになかった。

「やらせてください。結婚式・・・」

声のした方を見ると絵里子が車椅子で出てきていた。

「気分が良くて、看護師さんに・・・お散歩お願いしたら香織ちゃんの声が・・・」

「おばさん・・・」

「香織ちゃんの気持ち、本当に嬉しい。先生・・・どうか・・・お願いします。」

医師はなんとか許可してくれた。


「つらくないですか?」

ベッドの上でみどりが絵里子を採寸していた。

「おばさんに似合うドレスみどりさんとこにある?」

「あるわよ。デザインもシックで絵里子さんに似合うと思うわ」

「楽しみだね。おばさん」

香織は満面の笑みを浮かべていた。

「ねえ、この事矢崎には当日まで内緒にしてくれない?」

「私からあの人へのサプライズにさせてほしいの」

絵里子は今まで何も欲しいと思った事はなかった。
矢崎さえそばにいればそれで良かった。
だから、これから一人ぼっちになる矢崎に何か残してあげたかった。

香織のアイディアは今の絵里子にピッタリだった。

「こんなおばちゃんの花嫁姿、喜ばないかもしれないけどね」

絵里子はそう言って嬉しそうに笑った。

「おばさんの言うとおりにする。おじさんビックリっせて忘れられない思い出作る」

「ありがとう・・・香織ちゃん、もう一つお願い聞いてくれる?」

「うん?言って、私何でもするから」

その言葉に嘘はなかった。
絵里子のために自分が何か出来るのであれば何をおいても聞いてあげたかった。

「・・・バイオリンを弾いて・・・」

「・・・え?」

絵里子は香織が大きな壁にぶつかっていることを見抜いていた。
そのせいで近頃バイオリンを聞かせてくれない事も感づいていた。
後ろで黙って立っている母との間に何かあるのもわかっていた。

絵里子にとって香織は本当の家族ではなかったが、短い間でも家族のように振舞ってくれた
そんな香織が本当の家族との間に溝を作ったままでいることは我慢できなかった。

なんとか、元に戻す手伝いがしたかった。
それが香織へのせめてものお礼になると思っていた。

「香織ちゃんの素敵なバイオリンの演奏で私達を祝福してほしいの」

香織も智子もこの時はとてもやりきれなくなるのだった。


「・・・なんだ・・・これ」

「お魚の煮付け」

食卓には魚をぶつ切りにして煮込んだ物が乗っていた。
頭から尻尾までそのままだった。

汁椀の中も覗いたがおおよそ料理と呼べるような物ではなかった。
ここへきて智子の料理がどれだけ素晴らしかったか思い知る達彦だった。

「ね、昨日も今日もどこへ出かけてるの?」

「ハローワークだよ。仕事探しで」

「まだいいんじゃない?そんなに急がなくたって」

「少しはのんびりしましょうよ。私達新婚なんだから」

達彦には燿子がどういうつもりなのかわからなかった。

「俺が仕事しなきゃ、お前だって困るだろ」

「また同じ事繰り返すつもり?私を前の奥さんと同じ目に遭わせるの?」

「どういう意味だ・・・」

「仕事なんかより家庭でしょ?あなたそれが身にしみてわかったはずよ」

燿子は席を立ち書類を2枚持ってきた。

「何でまだだしてないの!離婚届!・・出せないじゃないの!婚姻届!」

燿子はまだ二人が正式な夫婦になっていないことに抗議していたのだった。
達彦が新しい仕事を見つけるより婚姻届を提出する方が先だったのだ。

「パパ、どこにいったの?どうして居なくなっちゃうの?」

燿子が夜中に達彦を探していた。
夜中に燿子が目をさますと隣には誰もいなかった。

達彦は元良介が使っていた部屋にいた。
ドアにベッドでバリケードを作り燿子が入ってこれないようにしていた。

やがて燿子がやってきて開かないドアに気がついた。

「ここにいるのね・・パパ、ねえ開けて。いるんでしょ?」

燿子はドアを叩き中にいるであろう達彦に呼びかけた。
達彦は中で黙って耐えているのだった。

燿子は妻と呼ぶにはあまりに幼稚だった。
これは達彦の精一杯の抵抗だった。

燿子は諦める事無くドアを叩き続けた。
リビングの壁が崩れ落ちた、それは全ての終わりを告げる前奏曲だった。

朝。
達彦は目をさますとドアをそっと開けてみた。
ドアのそばで燿子が座り込んで眠っていた。

「バカだな、風邪でもひいたらどうするんだ」

達彦は燿子を抱えあげようとした。

「パパは平気なのよ。私がどうなろうと・・・死んじゃっても平気なのよ」

燿子は起きていた。
達彦は仕方なく燿子を寝室へ運び添い寝をして寝かしつけた。

達彦は新聞を取りリビングで広げて驚いた。

”晨宋建設社長が自殺”

とんでもない文字が飛び込んできた。

「自殺?!晨宋の古河社長が?!」

さらに未来クリエーション幹部に億単位の金が流れたと報道されていた。

「どういう事だ・・・億単位の裏金って・・・」

達彦の脳裏で楠田常務が笑っていた。
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幸せの時間 ネタバレ 最終回 [幸せの時間 ネタバレ 最終回]

幸せの時間 ネタバレ 最終回

幸せの時間も35話が終わり、いよいよクライマックスを迎えます。
どうしても最終回が気になる方。ちょっとだけネタバレしちゃいましょう。

ちょっとだけよ・・・ o(-_-;フルイ・・・

浅倉家はとうとうバラバラになってしまいましたね。
奈津が智子に「お母さんと呼びたかった」っていうセリフが印象的でした。

それにひきかえ柳君の情けない姿・・・
あれだけ気取ってたのは何だったんだーって感じでした。

浅倉家には燿子が入り込んでしまうわけですが、
耀子は結局、現実が夢についてこれないんですね。

そして最後にとんでもない事をしちゃうかも・・・
危うし達彦!

それに、もうボロボロの家。
この家にも審判が下ります。

現実だったら大変ですよ。これ・・・



そして、このドラマ。
テーマは”崩壊”と”再生”です。
”再生”無くしてこのドラマは終りを迎える事ができません。

・・誰ですか?”崩壊”で終わったら面白いとか・・・木端微塵はだめでしょう!

そんな不幸なドラマ見たくありません、柳君みたいにトラウマになったら困ります。

さて”再生”ですが、残念ながらまるっきり元の形とはいかないようです。

まあ、当然ですね。

皆がそれぞれの形を変えて新しい道を歩き始めます。
立派な家に住んでいることが幸せな家族とは限りません。
また、全員が揃っているだけでも幸せな家族かどうか疑問です。

それ以前に一番大事なのは何なのか、それが最後に描かれています。
普段あまり気にする事のない大事なもの。

もし忘れてしまったら、浅倉家のようになってしまうかもしれません。

あ、そうそう・・・
このドラマ、最後の最後でまた死人が出ちゃいそうです。

いったい誰なんでしょうね。


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幸せの時間 あらすじ 35話 [幸せの時間 あらすじ 35話]

幸せの時間 あらすじ 35話

達彦は離婚届をジッと離婚届を見つめていた。

「・・どうして」

「あなた、私と柳先生の事疑ってたわよね」

「はっきり問いただしてくれたら・・・正直に答えるつもりだった。・・・柳先生と・・・」

「やめてくれ、そんな話聞きたくない」

達彦は立ち上がり智子に背を向けてしまった。
たとえそうだと確信していても、それを智子の口から聞くのは耐えられそうになかった。

「柳くんと寝ました」

それでも智子は告白した。

「ずっと隠さなきゃって思ってたけど、こうやってぶちまける瞬間を待ってた気がする」

「俺へのあてつけか?お前を裏切ったからそれを根に持ってんだな?」

それは達彦の最後の抵抗だった。
それ以上の答えを決して言ってほしくなかった。

「そうかもしれない・・・でもそれだけじゃないわ」

「柳君が好きだった。心の底からこの人に抱かれたいって思ったの」

達彦は自分の表情が歪んでいくのがわかった。

「体の芯が溶け出してしまいそうなのにヒリヒリと痛くてもどかしい・・・」

智子は柳が与えてくれた快楽を表現してみせた。
それは高村燿子が言ったいけない快楽なのだとも言った。

「いつからだ・・・いつからあの男と」

「きっかけはあなたが来られなくなったクリスマスディナー」

「一線を超えたのは年が明けてからよ。踏み込んだら全てが壊れてしまう・・・」

「そう思いながらも・・・どうしても自分を抑える事が出来なかった。」

智子の告白に達彦はとうとう耐えられなくなってしまった。

「お前はそんな女じゃなかったはずだ!」

「壊したかったの!・・・あなたのそんな思い込みを・・・」

「壊したかった・・・自分を縛りつけてた私自身の価値観を・・・」

「家族が抱えてる嘘や矛盾を吹き出させてしまいたかった・・・」

智子は嘘で塗り固めた家族に幸せなど無いのだと言った。

「そんなに何でもさらけ出したら、やっていけなくなる」

「家庭だって会社だって、みんな探りあいながら騙し騙しやってるじゃないか」

達彦は幸せを得るために多少の嘘は仕方がないと言った。

「じゃあ、あなたは高村さんが赤ちゃんを産んでも、知らん顔で家族を続けるつもり?」

「聞いたのよ。高村さんから・・・あなたの子を妊娠したって・・・」

その言葉に達彦は何も返せなくなってしまった。

「結局あなたは高村さんと離れられない。彼女はそれを運命って言ったんだわ」

「違う!騙されたんだ。罠だったんだ!なにもかも計算ずくで!」

「たとえそうでも・・・授かった赤ちゃんに罪は無いわ」

達彦に弁解の余地は無かった。
その時、玄関が開く音がした。

「あの子たちよ」

智子はそれが良介と香織だと言った。

「私、やっぱりママに会いたくない」

「会いたくなくても会うんだ。4人が家族として顔を合わせるのは今日が最後かもしれない」

良介はためらう香織を言い聞かせリビングへと入っていった。

「私が呼んだの、もう私の事もあなたの事も知ってるわ」

「あんたの愛人が香織に喋ったんだよ」

「私のお腹にはパパの赤ん坊がいる、ママはバイオリンの先生と不倫してるって」

良介は智子の言葉を引き継いでそう言った。

「どうしたの?その顔」

「柳先生の奥さんに・・・」

良介は智子の傷だらけの顔を見て言った。

「じゃあ、本当なんだね。おふくろも不倫したんだね」

智子は黙って頷いた。

「ハッ!最低・・・いや最高だよ二人とも、笑っちゃうよな香織」

「バイオリンが大好きだって、音楽ってこんなに楽しいんだって教えてくれた・・・」

「その先生とママが・・・私もう二度とバイオリンなんか弾かない!」

良介も香織も両親に対する不信をあらわにしていた。

「何も言えない、言い訳できない。あなた達には謝るしか・・・」

「謝ったって意味無いんだよ!もう戻れないんだから!」

良介は悔しくて仕方がなかった。
とうとう耐えられなくなって怒りが噴出するのだった。

「疑った事もなかった。この家に引っ越してくるまで。最高の家族だって信じてたんだ!」

「ぶっ壊れちまえ!こんな家!!」

「やめろ!良介!」

達彦が叫んだが良介は止まらなかった。
横のあった椅子を持ち上げ、力一杯床に叩きつけた。

その衝撃で不気味な音が家中に響きわたった。

「元はと言えばあんたのせいだ!」

「あんたが真っ当な父親の仮面なんか被って俺たちを騙してたからだ!」

良介は怒りに任せ、達彦を殴り飛ばしてしまった。
達彦は床に倒れこんでしまった。

家がまた不気味な音をたてた。

「良介・・・お前!・・・誰のおかげで不自由なく暮らしてきたと思ってるんだ!」

「俺だって・・・間違った事もする。それでもお前たと家族のために一生懸命・・・」

「俺は真っ当な父親やってたんだ。お前に何がわかる!」

達彦はふらつきながら立ち上がり、そう言った。
それは達彦の心の叫び。信じて疑わなかった父親の想いだった。

それだけは否定させまいと、今度は達彦が良介を殴り飛ばしていた。

お互いの心がぶつかる度に家は大きな悲鳴をあげていた。

「初めてだよ、あんたに殴られたの。一度だって叱られた事もなかった」

「あんたは本気で父親を・・・家族をやっちゃいなかった。」

そう言われて達彦がソファに腰を落とした時だった。
大きな音と共に家が揺れ、置物が床に落ちてガラスが割れた。

壁の仮面が床に落ちて半分に割れてしまった。
それはまるで仮面をつけた家族の崩壊を意味しているようだった。

「欠陥家族にお似合いの欠陥住宅・・・家が怒ってるんだよ」

「表面ばっかりで、中身がスカスカのこの家族に!」

達彦も智子も何も言わなかった。
良介の言葉を否定する物が見つからなかった。

「行くぞ香織、もう1秒だってこんなところにいたくない」

良介はためらうこと無く家を出ていった。
香織も後に続こうとした。

「香織・・・」

思わず呼び止める智子に一瞬足を止めてしまう香織。
でも・・・今は答えるわけにはいかなかった。

「いるか!こんなモン!」

外へ出た良介は家の鍵を地面に叩きつけ、振り返る事もなく歩き出した。
香織は放心状態でフラフラと良介に続いた。

智子も家を去ろうとしていた。

「行くのか?お前も・・・」

「・・・荷物は改めて取りにきます」

何かを思い達彦を見つめた後、智子は家を後にした。

「建てなきゃよかったんだ・・・こんな家。こんな家・・・何の意味も無い・・・」

「チキショー!チキショー!!」

家族を育めない物を家とは言えないと達彦は思った。
どれだけ立派だろうと、それはただの箱だった。

智子は玄関を出て、もう一度家を振り返った。
初めてこの家にやって来た時の幸せは遠い昔で色あせているようだった。
悲しくて見上げた星空はいつもと何も変わらなかった。

変わってしまったのは自分達だけだった。

そんな智子を物陰から見送っている人物がいた。
高村燿子だった。

燿子は良介が捨てた鍵を拾い不気味に笑うのだった。


朝の光と鳥のさえずりで智子は目を覚ました。

「おはよう・・・」

隣のベッドにみどりがいてこっちを見ていた。

智子はみどりの家にやってきていた。
急な事で頼れるのはみどりしか思い浮かばなかった。

「朝ごはんこれだけ?」

「うん。十何年もずっとそう」

テーブルには皿にクラッカーが並んでいるだけだった。
みどりはミキサーで作った野菜ジュースを持ってきて智子の向かいに座った。

「ご主人文句言わない?ベッドまで借りちゃて、お礼言わなきゃ」

「気にしなくていいよ、帰ってこないから」

「え?」

「長期の出張・・・当分ここで養生しなよ。昨夜の話じゃ簡単に立ち直れないでしょ」

みどりはそう言ってくれた。
みどりにも少し事情があった。


達彦は今日も楠田に呼ばれていた。

「・・・口止め料?」

「受け取ったんだな?晨宋建設の社長から現金を」

「その金で手抜きを見逃して、私に嘘の報告を」

達彦は焦った。

「いや・・・それは・・・」

「はっきりと受け渡しの現場を見た人間がいるんだ・・・そうだね、望月君」

楠田の横には雅代が立っていた。
長い間構ってもらえなかった雅代は達彦を陥れようとしていた。

「もっと早くお話しなきゃいけなかったんですが、浅倉部長に脅迫されて・・・」

達彦には全く覚えがなかった。

「俺が・・・いつ・・・」

「脅したじゃないですか!言ったらお嫁に行けない体にしてやるって、いやらしい目で」

「お前そんなデタラメ!・・・」

立ち上がって反論しようとした達彦を楠田が遮った。

「これ以上騒ぎを大きくしたくない。今日中に辞表を提出しろ!」

「辞表・・・」

「解雇だって出来るんだ。依願退職は最後の情けだ」

楠田はそう言って部屋から出ていった。
楠田がいなくなると雅代が話しかけてきた。

「常務もたぬきでしょ?あなたを辞めさせて手抜き工事の責任を押し付ける魂胆よ」

達彦はその事には触れず

「何故だ・・・何故俺を裏切った・・・君は私の優秀な」

「私がバカだった。私だけは他の人と違う。特別なんだって思い込んで」

「他の人?」

「知らないとでも思ってるの?」

「寿退社した子たち、今まで何人お嫁にやったの?」

「私はその子たちと違う!ちゃんと仕事ができる」

「部長もそういう私だから抱いたんだ。そう思い込んでた」

「だから冷たくされても我慢してきたの」

雅代は自分が会社にとって必要な存在でありたかった。
達彦が自分を求めて来ることは自分が必要とされている証明だと思っていた。

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ところが近頃は達彦は自分を求めて来なくなった。
自分は必要な存在では無くなったのではないか。
あるいは、自分が勘違いしていただけで元から達彦の欲望を満たすだけの存在だったのか

雅代は不要の扱いををされる事を恐れていたのだった。

雅代は更に会議室のドアを開け放って叫んだ。

「ねえ。部長!興味が無くなってお払い箱したいなら、そう言えばいいじゃない!」

「それも言ってもらえないんじゃ、ゴミだよね!私は雌豚って事だよね!」

「おい・・・やめてくれ・・・」

達彦はわけがわからなかったが止めるしかなかった。

「もう・・・それぐらいにしとこうよ。そんな下品な言葉」

横から口を挟んだのは矢崎だった

「ほっといて!私はこいつに下品な女にされたんだから!」

雅代は収まりがつかないようだった。

「悪いのはこいつだ、雅代ちゃんをそこまで傷つけて、平気なかおしてるこいつが悪いんだ」

矢崎は達彦を指さして言った。

「矢崎・・・お前・・」

「俺はいつだって女の味方だよ」

「こういう奴はあそこをちょん切って出来ないようにするのが一番いいんだけどよ」

矢崎は後ろで成り行きを見守っていた社員を見ながらそういった。
そしておもむろに達彦の方を振り向きながら・・・

「とりあえず・・・」

達彦を力一杯殴りつけた。
達彦は後ろのテーブルまで飛んで突っ伏してしまった。

「今、こいつを殴った拳は君の拳だよ」

矢崎は雅代に振り向いて言った。
雅代は呆然と聞いていた。

「こんな事じゃ気は済まないだろうけど、今日はこれで勘弁してくれないか・・・」

「なあ、雅代ちゃん・・・頼むよ・・・」

矢崎はそう言って深々と頭を下げるのだった。

雅代は糸が切れてしまったのか、矢崎の胸で泣きだしてしまった。
達彦はテーブルに突っ伏したまま何かを思っていた。


その頃智子は誰もいないはずの自宅に戻ってきた。
近くまで来て庭に誰かいるのを見つけた。

奈津だった。

「奈津さん・・・?」

「あ、すいません。私・・鍵を」

奈津は良介から鍵を投げ捨てた事を聞いて捜しにきたのだった。
その鍵を燿子が持っていった事など二人は知るわけがなかった。

「結局見つからなかったわね」

智子は寝室で荷物を片づけながら奈津に言った。

「昨夜、良介ものすごく荒れてて・・・」

「もう二度とあの家に行かない、だから鍵を捨ててきたって・・・」

「でも私鍵を捨てたら家族そのものを捨てるような気がして・・・」

「それでわざわざ捜しに来てくれたのね」

「嫌なんです。このままバラバラになっちゃうのは」

「私にはもう良介の気持ちを繋ぎ止める力も資格も無いわ」

奈津が言いたいのはそんな事ではなかった。

「私、まだおばさんのこと・・・お母さんって呼んでないのに・・・」

「呼べるようになりたかった・・・お母さんって・・・」

奈津は智子を母と呼べる日を楽しみにしていた。
一人になる寂しさは奈津が身を持って経験してきた事だった。

「浅倉家の家族の一員に私も入りたかった・・・それなのに・・・」

「・・・奈津さん」

奈津がずっと憧れ続けていた家族・・・
良介がいた家族の中に自分も加えて欲しかった。

血は繋がっていなくとも、父や母、妹が出来ることはこの上ない事だった。


奈津が帰ったあと、智子はお弁当の写真を全て削除しようかと思った。
しかし思い切る事が出来ず、USBメモリにコピーして持ち出す事にした。


いつもの屋台の所で矢崎と達彦が話していた。

「今日はすまなかった。ああでもしなきゃ、収まりつかないと思って」

「人間失格。女の扱いも知らずに多少モテてるつもりでいい気になって」

達彦は矢崎に感謝していた。
おかげであの場はなんとか収まった。

「女はみんなお姫様だからな」

「一人一人ににお城があって綺麗に飾って暮らしてる」

矢崎の持論は達彦にはとうてい理解出来なかった。

「智子さんだってそうだ。もっと言えばお前のおふくろさんだって現役のお姫様だ」

「うちのおふくろが?えらいお姫様がいたもんだ」

「女は一生お姫様なんだよ」

達彦にはますますわからなかった。

「これからどうする?」

矢崎は達彦のこれからの事を心配してくれた。

「俺の友達に小さい工場を持ってる奴がいるんだが・・・お前には似合わないな」

「帰ったら何て言う?智子さんに」

「出ていったよ。智子も良介も香織も・・・みんな家を出ていった、俺を置いて」

「何もかも失くした、会社も家族も。これまで人生を掛けて築いた物すべて・・・」

達彦はコップの酒を煽って何度も大きな息をした。


智子は由紀の店を訪ねた。
店は閉まったままだった。

ふと足元を見ると外に向かって点々と赤い点が続いている。
それを目で追った先に篠田が立っていた。

「血の痕です。」

「血の痕・・・?」

篠田の話では智子との不倫がバレた夜、由紀が柳の股間を切りつけたという事だった。
慌てたともこはそのまま柳が入院している病院へ駆けつけた。

「智子・・・!」

カーテンを開けるとそこに柳はいた。
柳は智子を見ると必要以上に驚いたようだった。

「柳君、怪我は?大丈夫なの?ちゃんと繋がってるの?」

柳は智子の顔を見ようともせず黙って頷いた。

「傷自体は大した事無かったんだけど、出血がひどくて」

柳の話では表面を少し切っただけで少し縫っただけで済んだという事だった。

「由紀さんは?もしかして警察に?」

病院から通報されそうになったと柳は言った。
いつもどおりでは飽きたらず、つい遊びでやったらこうなった説明したと言った。

「ああ、よかった・・・」

「どこがいいんだよ!あの包丁があとちょっと食い込んでたら・・・」

柳は本当に恐怖したのか、ブルブルと身震いをした。

「悪いけどこれっきりにしてほしい。今日限りで俺の事忘れて下さい」

柳は簡単に言ってのけ頭を下げた。
智子はあっけにとられてしまった。

「そろそろ由紀が戻ってくる。こんな所見られたら・・・お願いだから早く出ていって」

そう言うと柳は布団を頭からかぶってしまった。
どういう事だと智子は思った。
そこにいる柳は全くの別人だった。

カーテンを閉め帰ろうとしたところへ由紀が帰ってきた。

「切れちゃってもいいと思ってやったんです。」

「それで浩ちゃんが私だけの物になるなら、それぐらいの犠牲仕方ないと思って」

由紀もまた別人だった。
あの明るい由紀はどこに行ってしまったのか。

智子と関わる事でこの二人もまた仮面をはずしたのかもしれなかった。

由紀は柳のそばへ行きりんごを剥いてあげると言って果物ナイフを手にした

「ヒッ!」

柳は異常に反応していた。
身動きせず震えているように見えた。

「りんご・・・好きでしょ?」

「・・・す、き・・・」

柳はそれだけ言うのがやっとのようだった。

智子は心の中で謝り、そして別れを告げた。
もう二度と会うことは無いだろうと思った。


達彦は自宅に帰ってきた。
誰もいない家は暗く静まり返っていた。

玄関を入りその場へ座り込んだ。

「何でだ・・・何で俺がこんな目に・・・」

すると家の奥から床の軋む音がした。
誰かが歩いているようだった。

「誰だ・・・誰かいるのか?」

その声に答えるように奥から誰か出てきた。

「パパ、おかえり」

それはウェディングドレスを身にまとった燿子だった。

「・・・燿子・・・」

「やっとこの日が来たね」

悪夢はその手を緩める事なく達彦になお迫ってきた。

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幸せの時間 あらすじ 34話 [幸せの時間 あらすじ 34話]

幸せの時間 あらすじ 34話

「柳先生はどうした?今日はレッスンの日じゃなかったのか?」

「とっくにお帰りになったわ。香織もお友達のところへ出かけたし・・・何か?」

達彦は思い切って訊いてみようとと思った。

「智子・・・お前、まさか・・・」

智子は達彦の方へ振り向き正面から訊いた。

「ハッキリ言ってください、訊きたい事があるなら」

「そのために帰ってきたんじゃないんですか?こんな時間に」

その強気な態度に達彦の方が気遅れしてしまった。

「アザレアの視察だ、苦情の対応だよ。ついでに寄ったんだ」

そう言って達彦は出て行った。
智子の不安は大きくなる一方だった。


篠田は自分の店に戻ってきた。
とりあえず智子を助ける事が出来たが本当にそれで良かったかどうかはわからなかった。

カタン。

店の中で花を挿したバケツが倒れる音がした。
その花を踏みにじって燿子が現れた。

「悪あがきはやめなさい。どうせいつかはバレるのよ」

耀子は篠田が智子に龍彦が帰ってくることを教えた事を言っていた。

「犬ね。主人を守る忠犬篠田。」

篠田は悪態をつく燿子を押しのけ燿子に踏まれていた花を拾いあげた。

「可哀想に、痛かったろ。花にも命があることを知らない女」

「悪魔が住んでるんだ、この女の心の中に・・自分しか愛せない悲しい悪魔が」

「・・・変態!」

耀子は花を撫でる篠田にそう吐き捨てて帰っていった。
篠田は同じ悪魔が自分の中にもいると自分で告白するのだった。

香織は街中で脇目もふらず急ぎ足で歩く燿子を見つけた。
何を思ったか、香織は燿子の後をつけていった。

近くの公園まで来たとき香織は燿子を見失ってしまった。
周囲を見渡す香織の背後から声がした。

「何の用?浅倉香織ちゃん・・・私をつけてたんでしょう?」

香織が後をつけている事を耀子は知っていたのだった。

「あなたを探してたんです」

「そんなに会いたかった?パパの愛人だった私に」

「今は違うんですよね。誰か別の人とそういう関係になって赤ちゃんを・・・」

「疑ってるのね?パパのこどもじゃないかって」

耀子は思った。
香織に真実を告げれば自分の夢が早く叶うのではないか?
何より香織は真実を知りたがったいるではないか、と。

「パパの子よ。私のお腹にいる赤ちゃんはあなたの弟か妹」

耀子は3月初めに龍彦と再開した時の子供だと言った。
そんな話は香織にはきつすぎた。

「不潔!なんでそんないやらしい事!」

「いやらしくない。愛し合ってるんだもの」

「パパにはママがいる!」

「ママだって浮気してるわよ。気づかなかったの?」

燿子の口からとんでもない事実が語られた。
香織の驚きは半端ではなかった。

「バイオリンのお稽古を隠れ蓑に二人でイチャイチャしてた事」

「・・・まさか柳先生と?」

香織には思い当たる事がいくつかあった。
でも、まさか智子が浮気してようなどと思いもしなかった。

「・・・嘘。・・・」

あまりの衝撃に香織は耐えられず走り去ってしまった。

香織はそのまま奈津の部屋に向かった。
良介と奈津に今聞いた話をした。

「ありえないよ、おふくろが不倫なんて。俺は絶対信じない!」

「燿子って女、親父とおふくろを別れさせるためにデタラメ言ってるんだ」

良介は全く信用せず、否定した。

「でも、今思うとママ変わったもん。」

「出かける事多くなた、お洒落になった、綺麗になったし」

「レッスンの日になるとソワソワして・・・私何も気づかなかった」

香織はもうどうしていいかわからなかった。
良介がいくら否定しても燿子の言った事が嘘だとは思えなかった。

「悪いのは親父だよ。別れた女とまたくっついて・・・子供まで作るなんて」

「もう父親だなんて思わない。今日から他人だ」

怒りをあらわにする良介を奈津が心配そうに見ていた。
それが決して良い判断でないことを奈津はちゃんと知っていた。

香織の携帯が鳴った。それは自宅からだった。
気がつけばもう遅い時間だった。
電話には代わりに奈津が出ることにした。

「もしもし香織?」

「奈津です。香織ちゃん今日はうちに泊まっていくって・・・今お風呂に」

「お友達に会うって出てったのに心配で」

「すいません。良介と3人で話が弾んじゃって」

奈津が取り繕おうとしている電話を横から良介が奪い取った。

「おふくろ!俺、おふくろの事信じてるから」

「良介?」

「嘘つき親父なんかとは違う、おふくろは俺や香織を裏切ったりしないって信じてるから」

「何なの?良介。どういう事?」

良介はそのまま奈津に携帯を渡した。

「あの・・・」

「奈津さん・・・良介はいったい・・・何かあったのね?香織に」

「香織ちゃんにはママが心配してたって伝えておきます。おやすみなさい」

奈津はそう言って携帯を切った。
智子は受話器を置くと言い知れない不安に襲われた。

家のどこかでまた大きな音がした。

寝室にいた達彦の後ろで何かが落ちて割れる音がした。
拾い上げるとそれは達彦と智子の結婚写真だった。

それは二人の終焉を暗示しているかのようだった。


次の日。
智子が掃除をしていると電話がかかってきた。

「はい、浅倉です」

「・・・」

「もしもし?」

「高村燿子です。今おうちの前に来てるんです」

訪ねてきた燿子が家のチャイムを押した。


達彦も会社で進退極まっていた。
達彦の悪い噂が社内に広まっていた。

「おい、だいぶ噂になってるぞ。晨宋建設の手抜き工事、大丈夫か?」

矢崎が心配して声をかけてくれた。

「悪いな。これから会議なんだ」

そう言って達彦は会議室に入っていった。

総務部が調査した結果は酷いものだった。
中には半年で家が傾いたという報告もあった。

「認めたのか?晨宋の古河社長は」

「噂通り廃材を使ったのは間違いありません。それも相当数」

楠田の問に野口ははっきりと報告した。

「なぜ見抜けなかったんだ!浅倉くん!なぜこんな会社を白だと・・・」

「私が甘かったんです。長い付き合いの古河社長を信じたい一心で・・申し訳ありません」

ここまできたら達彦には素直に謝るしかなかった。
下手な言い訳をしたら返ってやぶ蛇になると思った。

「でかいよ。このダメージは」

「全て、私のせきにんです」

達彦は再度頭を下げた。



智子は燿子を家に入れてしまった。
妊娠の事実を確認したいと思ったからだ。

「素敵、やっぱりいいお部屋だわ」

燿子はリビングに入ると広いリビングが気に入ったような事を言った。
智子は黙って燿子を見ていた。

「どうしたんですか?そんな顔して」

「奥さんは私に会いたがっている。そう思ったから来たんですよ?」

「聞いたんでしょ?お嬢ちゃんから私の事」

燿子はてっきり香織が智子に話していると思った。

「香織に?」

「何も言わなかったの、あの子」

智子は香織や良介の様子がおかしいのは燿子のせいだと思った。

「あなたが話したのね、あの子に何か・・・言って何を話したのか、私にも話して」

「私は事実を伝えただけよ・・私が知ってる浅倉家の真実をね」

燿子はそう言ってソファーに座り、手に持っていた携帯をテーブルに置いた。

その携帯はなぜか開いたままだった。

「赤ちゃんの事も?・・事実なのね?妊娠は」  「ええ」

「主人の子なの?」  「もうすぐ4ヶ月。お腹に入ったのは3月の初めよ」

「あの人が誘ったの?」 「それはご主人に訊いて」

そんなやり取りが繰り返された。

「私と別れてあなたと一緒になると」

「そうなるでしょうね。あなたが素直に離婚届に判をついてくだされば」

「嫌とは言わせないわよ。あなたも他の男とよろしくやってらっしゃるんだから」

「立派な事おっしゃってたわね。」

「そのあなたが家庭を持ってる男の人と相手の奥さんの気持ちを考えず不倫するなんて」

智子はショックだった。
どうして燿子が知っているのか不思議だった。

「言ったのね、香織に」

「並大抵のショックじゃなかったでしょうね」

「お母さんが自分のバイオリンの先生と不倫してたなんて・・・」

智子は絶句した。
恐れていた事が現実になろうとしていた。
燿子は執拗に智子を煽るのだった。

「この仮面が見ていたはずだわ。」

「訊いてみたいわね。あなたと柳先生がどんなだったか」

「やめてください!」

智子は聞いていられなかった。

「わかったでしょ、私の気持ち」

「その人の奥さんが泣こうが、わめこうが、どうだっていいのよ」

燿子は智子が偉そうに言ったくせに由紀の事を考えず柳との快楽に溺れたのだろうと言った

「だから現実に引き戻してあげた」

「由紀さんの事忘れちゃいませんかってね」

そう言われてやっとランチの講習の事がわかった。

「それでランチの講習の事を。聞いたわ、あなたが私の名前を出したって・・なぜそこまで」

「あなたが言ったんじゃない!家族を持って家庭の幸せを味わいなさいって」

「確実に実現させていただくわ」

燿子は確実に達彦を奪い取ると言っていたのだ。

「高村さん、あなた・・・」

智子は燿子がこんなに執念深いとは思わなかった。
悪魔のような仕打ちにただ立ち尽くすだけだった。

ふと、燿子はテーブルの携帯を手にとった。

「もしもし、聞こえてたんでしょ?」

「誰に電話を・・・」

智子はギョッとなった。

「繋がってたの、この携帯。由紀さんの携帯に・・・」

「由紀さんに・・・!」

「丸聞こえだったのよ、今の話」

由紀は携帯を耳にあてたまま、険しい表情で智子のもとへ急いでいた。

「あなたと柳先生の関係も何もかも」

「そんな・・・」

「自業自得よ・・・私が恨まれる筋合いはないわ」

智子が顔をあげたその先に由紀がいた。
いつもの明るい表情は微塵もなかった。

智子はフラフラと由紀の間に歩み寄った。

「由紀さん・・・」


「信じてたのに・・・若いころの浩ちゃん知ってるだけで凄いって思ってた」

「料理上手で、きれいで、優しくて。浩ちゃんも一目置いてる素敵な人」

「あんな風になりたい、お手本にしなきゃって・・・本気で憧れてたのに・・・」

智子はへなへなとその場に崩れ、床の上に頭を擦りつけた。

「許してください・・・ゆる・・して・・・」

「許されると思ってるの!」

智子は首を横に振った。
それは智子自身がよくわかっていた。しかしそう言うしかなかった。

「だったら、おざなりの謝罪なんかするな!」

由紀の怒りは頂点に達していた。
由紀は近くにあった植木鉢を手当たり次第に智子にぶつけた。

「ずっと浩ちゃんが好きだった。次から次へ女の人泣かせて」

「あんな奴っやめろって言われたけど諦めなかった」

「10年よ!知り合って10年、30過ぎるまで待って、やっと手に入れたの」

天真爛漫な由紀にも辛い時代があったのだ。
大好きだったから、柳の全てを許し受け入れてじっと待っていたのだった。

「私の大事な浩ちゃんをよくも!」

「由紀さん・・・」

「澄ました顔して、人だまして・・・淫乱女!」

由紀は智子の服の襟を掴みそのまま庭の花壇に投げ飛ばした。
花壇を壊し地面に倒れ込んだ智子の上に馬乗りになって延々と智子の頬を叩き続けた。

「思い知れ!思い知れ!」

いつ終わるとも知れぬ由紀の制裁を智子はじっと受けていた。
今の智子に出来ることは今の由紀を全て受け入れる事だけだった。

黙って見ていた燿子はニヤッと笑うとカバンから一枚の書類を取り出して
テーブルの上に広げて置いた。

それは離婚届けの用紙だった。

夕方。
篠田が通りかかると、智子の家の門が開いたままになっていた。
篠田は胸騒ぎを覚えて智子の家の庭へ入っていった。

「・・・智子さん!」

そこには仰向けになったまま放心している智子の姿があった。
智子の顔は傷だらけになっていた。

「まさか、あの女が」

「受けるべき罰を受けただけ・・・」

「すぐに手当を」

篠田は智子を抱え上げようとしたが、智子はそれを拒んだ。
一人でフラフラと家の中へ入っていった。

篠田は複雑な思いでそこに佇んでいた。


達彦が帰ってきた。
家の灯がついていないので留守かと思った。

リビングに入り灯をつけて驚いた。
そこには智子がジッと座っていたのだった。

「どうした、真っ暗じゃな・・・智子、どうしたんだその顔」

智子はそれでも黙っていた。
達彦はテーブルに置かれた書類に目を落とした。

離婚届には智子の署名捺印がされていた。

「これ・・・」

絶句する達彦をそっと智子が見上げた。
その眼差しがすべての終わりと謝罪を訴えていた。


由紀は今日は店を開けていなかった。
店のなかで柳が帰ってくるのを待っていた。

「どうしたの?クローズになってるけど」

何も知らずに帰ってきた柳は由紀に話しかけた。

「今日はお休みにしたの。なんだか疲れちゃって」

「どうしたの?元気印の由紀ちゃんが・・・どれどれ?」

柳は由紀の額に手をあてた。
その手を由紀が掴んで言った。

「浩ちゃん・・・抱いて、今ここで」

柳は何を疑うこともなく、由紀を抱きしめた。

「塗り替えなくちゃ。上書きしなくちゃ」

うわ言のように由紀は呟いていた。
由紀の受けた衝撃は簡単な事では収まらなかった。

常軌を逸した由紀は近くにあった刃物を持って柳を睨みつけた。

「・・・お仕置き」

柳はそこで何かが崩れた事に気づくのだった。

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幸せの時間 あらすじ 33話 [幸せの時間 あらすじ 33話]

幸せの時間 あらすじ 33話

「誰?」

香織は奈津に尋ねた。
燿子はゆっくりと二人に近づいてきた。

「お久しぶりね。私もここでお世話になることになったのよ」

「生まれてくるのはあなたより少し先になるけど・・・」

奈津は厳しい表情で燿子を見据えていた。

「高村さ~ん、高村燿子さ~ん。」

受付から燿子を呼ぶ声がした。
燿子は診察室へ入っていった。

「高村燿子・・・?」

「あんたのパパの愛人だった女・・・」

香織は驚きの表情で燿子の後ろ姿を見つめていた。

良介は今日も近所で建築中の家の前で立ち止まった。
そこでは何人もの職人たちが一生懸命作業していた。

「お、また来たのか?面白いか?」

良介はその現場の棟梁と顔見知りになっていた。

「ちゃんと見れば良かったと思って・・・自分の家がどうやって建てられたのか」

「この家に住む人は幸せです。大工のお兄さん達、あんなに丁寧に仕事してるから」

建築の事は良介にはわからなかったが、職人の丁寧な仕事ぶりは伝わってきた。

「住む人の顔、かぞくの顔を思い浮かべて家を造れ。連中にはいつもそう言ってる」

「家族の顔・・・?」

「実際にこの家で暮らす人達の気持ちを背負って建てろってことだ」

「ついでにお客さんに顔を覚えてもらえってね。安心だろ?建てた人の顔が見えるのは」

良介はウンウンと頷いてまたみんなの仕事ぶりを眺めていた。


良介は家に帰って建築構造の基礎が書かれた専門書を読んでいた。
そこへ香織が入ってきた。

「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「うん」

良介は本から目をそらさず答えた。
香織は話しにくいのか、部屋の中を歩き始めてしまった。

「何だよ?お前、飯の時から変だったよ」

「・・・会っちゃった。」

「誰に・・・?」

「パパの元愛人・・・」

「それも、奈津さんと行った産婦人科の待合室で」

さすがに良介も驚いたようだった。

「ちょっと待って、どういう事?妊娠してるって事?検査とかじゃなくて」

香織は頷いた。

「産むって言ってた。奈津さんよりは少し先だって」

「・・って事は・・あれから誰かそういう人が出来たんだ。結婚したのかも」

「でも、どっかに引っ越したんでしょ?なんでこの近くの病院に?」

香織はどうしても不安が拭えなかった。

「評判のいい医者だったら多少遠くても・・・気にすることないだろ?」

「うちとはもう関係ないんだから」

「・・・本当にそうならいいけど・・・」

香織は今にも泣き出しそうだった。
そんな香織を見て少し不安になる良介だった。


智子は由紀の店で頼まれた通り講習会のメニューを決めていた。
智子の前には由紀が考えた料理が並んでいた。

「メインはお肉かな。お魚のエスカベッシュって思ったんですけど」

「家で作るにはめんどくさいって言われそうで」

「普段家でやらないから、簡単なコツを教えてあげたら喜ばれるんじゃない?」

由紀の悩みに智子は的確なアドバイスをしていた。

「あ、そうか。そうですよね」

ゆきは一生懸命メモをとっていた。

「これ、参考になるかどうかわからないけど」

智子はファイルを一冊由紀の前に差し出した。
それは智子が撮りためたお弁当の写真集だった。

「すごい!これ全部ですか?」

「ほんの一部。最近の物だけよ」

由紀はページをめくりながら、その凄さに圧倒されていた。

「お弁当風のワンプレート盛りもいいですね」

由紀は新しいアイディアを思いついたようだった。

「よかった。思い切って智子さんにお願いして」

「この事を話たら、浩ちゃんビックリしちゃって・・・」

「お前はどこまで図々しいんだ、って」

柳の話題になると智子は何を言えばいいかわからなくなっていた。
由紀はお構いなしに続けた。

「思わず言い返しちゃった。」

「そういう所が可愛いって、頭なでなでしてくれるのは誰ですかって」

「私、浩ちゃんにはいつも攻撃態勢なんです。仕事も、ベッドの上でも」

由紀は茶目っ気たっぷりに智子にのろけてみたのだった。
そんな由紀を見ていると心が波立つ智子だった。


智子は一人で公園に佇んでいた。
このままではいけないと思うものの、どうしたらいいか悩んでいた。

「僕には理解できない。」

「どうして、あなたが平気な顔で由紀さんの前に出られるのか」

振り向くとそこに篠田が立っていた。

「あなたと柳さんの事を知ったら、あの人がどんなに傷つくか」

「それを一番わかっているのはあなたのはずだ」

そんな事は篠田に言われなくてもわかっていた。
智子は何も言わず黙っていた。

「否定しないんですね。柳さんとの事」

「・・・私が幸せならそれでいいんでしょう?」

智子は以前篠田に言われた事をそのまま篠田に返した。

「あれがあなたの本音なら放っておいて」

智子は立ち上がって篠田から離れようとした。

「僕にはあなたが本気で柳さんを愛しているとは思えません」

「家庭を捨ててまで・・・そういう愛ではないんでしょう?」

その言葉に智子は立ち止まり篠田の方に振り返った。
はっきりと否定する気持ちが智子には無かった。

「気をつけてください。いまの暮らしを手放すつもりが無いなら気をつけて」

「・・・なんの事?」

さすがに智子も聞き返さずにはいられなかった。

「あの女が、またよからぬ事を企んでいます。」

「あの女?」

「高村燿子です。ご主人を取り戻そうとしてるんです」

篠田は自分の店に燿子がきて運命だと言った事を話した。

「運命・・・?」

「獲物を狙う女豹の目であなたとご主人を見つめている」

篠田に言われた言葉が智子の頭から離れなかった。


夜。
寝室で智子は達彦に訊いてみた。

「また会ってるの?高村さんと・・・」

「高村さん、最近このあたりでよく見かけるって聞いたのよ・・・どうなの?」

智子は鏡台にに座ったまま鏡に映る達彦を見ながら問いかけた。

「俺が?・・・なんで?」

「答えて・・・」

「誰だ・・誰がそんなこと・・・」

智子は篠田に聞いた事を明かした。

「高村さんが、またあなたとやり直したがっているって・・・」

達彦は驚いた。
まさか篠田から燿子のことが知れるとは思わなかった。

「何で真にうけるんだよ。あんな奴の言うことを。」

「篠田の奴、またお前に言い寄ってるんだろ、有ること無いこと言って」

「いちいち耳を貸すんじゃないよ!あんな変質者のいう事を!」

達彦はかなり興奮していた。
力任せに知子をねじ伏せようとしていた。

今の龍彦には策を思いめぐらす余裕など無かった。

「少し落ち着いたら?違うなら違うって普通に言えばいいじゃない」

「逆に疑いたくなるわ。何かあるんじゃないかって」

勢いこそ無くなったが、それでも達彦は落ち着かない様子だった。

「会ってない、何もない、何もありゃしないって言ってるじゃないか!」

「頼むから、つまらん事で俺の心を乱すのはやめてくれ!」

達彦は智子に会社での事を話し始めた。

「会社で今、大変な事になってるんんだ俺は・・・」

「アザレアの苦情が全部俺の肩にのしかかってきてるんだ」

それは智子にとっても無関係な話ではなかった。

「アザレアの苦情?もしかしてこの間の雨漏りみたいな事が他の家でも?」

達彦の無言がそれを肯定していた。

「もし欠陥住宅と認定されたら俺は間違いなく降格だ。下手したら首が飛ぶんだぞ」

「他のことに関わっている暇なんかあるか!」

智子はリビングに降りて仮面と向き合った。

「欠陥住宅・・・」

仮面の裏の亀裂はこの家の素性を語っているのだった。



今日は由紀に頼まれた講習会の日だった。
智子のレシピは大好評だった。
智子も正直こんなに受けるとは思わなかった。

智子のお弁当写真集もみんな驚いて眺めていた。

「ありがとうございました。おかげさまで大成功です」

「人に教えるなんてなれなくて」

由紀は智子に礼を言い、自分一人では出来なかっただろうと言った。

「燿子さんにもお礼言わなくちゃ。今日来てくれるはずだったんですけど」

「燿子さん?」

智子はまさかそれが高村燿子の事だとは思っていなかった。

「話しませんでしたっけ?」

「アシスタントを智子さんに頼んでみたら?って言ってくれたの燿子さんなんです」

「???」

「高村燿子さん。」

「この間ここで旦那さんと待ち合わせされてて、奥さんともご懇意だって」

「・・・高村さん・・?」

智子の心がざわついた。会っていないと言っていた達彦の言葉が脳裏に浮かんだ。

「赤ちゃんが出来たんですって、燿子さん」

「・・ええっ!」

「今朝電話でつわりが酷くなったから行けなくなったって」

「知らなかったからビックリしちゃって。どんな人なのかな、旦那さん」

智子はまさかと自分の考えを打ち消したが、完全に消し去ることは出来なかった。


達彦は会社で郵便物のチェックをしていた。

一つの封筒を開けて中身を取り出したとき机の上に何かが落ちた。
達彦はそれを拾い上げそれが何か確かめた。

一瞬の後、達彦はそれが何かわかって慌ててそれから手を離した。


【微妙な表現】


「罠だったんだな・・・最初から俺をはめるつもりで!」

達彦は燿子の腕を掴み壁に押し付けた

「やめて!赤ちゃんが怖がってる」

「何が赤ちゃんだ!中絶しろ!すぐに堕ろしてこい!」

達彦は中絶を強要した。

「やめて、龍彦さん・・・うっ・・やめろ!」

耀子は自分の父の遺影を龍彦につきつけて怒鳴りつけた。

「もう逃げられないわよ。あなたはこの子のパパになる」

「私たち家族になって3人で暮らすのよ。あの街のあなたが建てた素敵な家で」

燿子の異様な迫力に達彦は押されて後退りをしていた。
そしてソファーに力なく座り込んだ

「俺の家族は智子と二人の子供だけだ」

「離婚すればいいのよ。簡単じゃない」

「別れるものか、智子だって絶対!」

「言えば承知するわよ。奥さん・・・だってあなたを裏切ってるんだから」

達彦は燿子が何を言っているのかすぐには理解出来なかった。

「裏切ってる?智子が俺を?」

「ヒント・・・あげたでしょ?」

達彦は急いで記憶の糸を手繰り寄せた。

”あなたの奥さんもそろそろお帰りのようね”

”あなた、早かったのね。支度遅くなっちゃって”

達彦の中で今までの違和感が一本に繋がった。

「まさか!智子と柳先生が?・・・何か証拠でもあるのか」

「証拠は無いわ。でも私は確信してる。訊いてみたら?自分で」

「奥さんが認めたら、離婚成立。私たち晴れて家族になれるわ」

燿子の言葉は耳に入らなかった。
考えた事もない現実が起こっているかもしれなかった。


達彦は夕食をとっていた。
智子はキッチンで洗い物をしていた。

達彦は智子を見ながら燿子の言った事を思い出していた。
智子は昼間由紀の言った言葉が頭から離れなかった。

「ごちそうさま」

それだけを言って達彦は寝室へ入っていった。


「柳先生?柳先生がどうかしたの?」

香織は達彦の方に振り返って怪訝そうに訊き返した
達彦はまず香織から智子と柳の情報を手に入れようと香織の部屋にきたのだった。

「バイオリンのレッスンの時どんな感じかなと思ってな」

「楽しいよ。自分がこんなにバイオリンが好きだったんだなあって、初めて気がついた」

「ママは・・・レッスンの時どうしてるんだ?」

「一緒に聴いてるよ」

「レッスンの後は?」

「お茶したりおしゃべりしたり」

「早く来ることもあるのかな?柳先生は」

さすがに香織も龍彦がおかしいと気がついた。

「あるけど、何なの?何が聞きたいの?」

「いや・・・」

普通を装い達彦は部屋から出ようとした。
香織はそんな達彦を引き止めて訊いた。

「パパ。私もパパに訊きたい事がある」

「何だ?香織」

「高村燿子さんが妊娠してるってパパ知ってる?」

龍彦は表情を変えないようにする事に全力を使った。
なぜ香織がその事を知っているのか不思議だった。

「・・知らない、初めて知った。なんでお前がそんな事を?」

「奈津さんと同じ産婦人科に来てたから」

「引っ越したのに、なんで前に住んでたお医者さんに来てるんだろうって」

耀子はこの家に住むつもりなのだと達彦は思った。
そして、わざとバレるように動いていいるのだと思った。

「ねえ、おかしいと思わない?」

「わからないよ。パパに聞かれても・・・それに忘れてしまった。そんな人は」

「本当に?また隠し事してない?」

「してないよ。邪魔して悪かった」

達彦はそれだけ言って香織の部屋から出て行った。


今日もバイオリンのレッスンだった。
レッスンを終えて香織は柳に訊いた。

「先生、次の課題は?」

「シベリウスにトライしようか」

「バイオリン協奏曲ですか、うわ、大変」

「CD持ってきたから聴いてみるといい」

柳はカバンから一枚のCDを取り出して香織に渡した。

「いいわね、シベリウス。後でママにも聴かせて?」

智子がお茶とケーキを運んで柳の前に置いた。
その後、香織は友達と約束があると出かけていった。

香織がいなくなると柳は智子を抱きしめた。


「また、君の好きな曲を選んでしまった」

「・・・潮時だわ。何か恐ろしい事が起こる気がするの」

智子は柳の手を解いて言った。

「恐ろしい事?」

「きっと、みんな巻き込まれる。あなただけじゃなく由紀さんも」

「別れましょう。由紀さんに知られないうちに」

「罪悪感を感じてるんだね、由紀が店の手伝いなんかさせたから」

「でもね、智子。そういうリスクを背負うのも不倫の醍醐味なんじゃない?」

智子の言うことを柳は聞いてくれそそうになかった。

「だからこんなに楽しくて気持ちいい」

「柳君・・・」

智子はため息をついた。

「おいで」

柳に呼ばれて智子は柳の横をすり抜けようとした。
柳はその手を捕まえて抱き寄せた。

ふと目をあげると庭に篠田が立っていた。

「篠田さん・・・」

柳は振り返り、慌てて智子から離れた。
智子は篠田の方へ行き窓を開けた。

「言ったはずです。入ったら訴えるて!」

「ご主人が駅からこっちへ向かっています」

智子の表情が驚きに変わった。

「え!」

達彦が自宅に向かって歩いていた。
その姿を隠れて燿子が見ていた。

「どうしよう」

「正直に言えばいいわ。今レッスンが終わったって」

修羅場への序曲が始まっていた。

「しかしなんでご主人は・・・ひょっとして俺疑われてる?」

「だったらこんな所で顔合わせるわけには」

取り乱す柳を見ながら智子は何かが冷めていくのを感じていた。

「裏口から出て。こっちよ」

智子は柳を裏口に連れて行った。
篠田も慌てて家から立ち去るのだった。

達彦は勢いよく玄関を開け、リビングに入った。
そこには誰も居なかった。

テーブルにはケーキとお茶が出しっぱなしだった。
なんとなく違和感があった。

リビングを出ようとした時、そこに智子が立っていた。

「あなたどうしたの?こんな時間に・・・」

その時が迫っていた。
向かい合う二人の運命の歯車がまた大きな音を立てようとしていた。
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幸せの時間 あらすじ 32話 [幸せの時間 あらすじ 32話]

幸せの時間 あらすじ 32話

達彦は雨漏りの酷さに驚いてしまった。

「良介がとりあえずビニールシートで応急処置してくれたんだけど」

「あんなんじゃどうしようもないよ。こんなでっかい穴開いてんだもん」

良介も香織もびしょ濡れだった。部屋中に色んな器が並んでいた。
もはや、雨漏りとは言えなかった。

”君の家は大丈夫かね?もし事実が君の報告と違っていたら新しい企画どころではない!”

達彦の頭に楠田の言葉が蘇ってきた。
事の重大さは想像以上だった。

「ねえパパ。この家本当に大丈夫なの?」

香織は不安を隠せなかった。

「相当やばいことは間違いないよね」

良介の言うことはもっともだった。
智子は不安そうに達彦を見ていた。

達彦は何も言わずにただ立っていた。

りんく

次の日、雨は止んでいた。
智子はやれやれと思いながらリビングの床ををあちこち踏んでみた。
前にも増してあちこちがきしんでいた。

キッチンの床の黒ずみは大きくなるばかりだった。

テーブルに置いた智子の携帯が鳴った。柳だった。

「どうしたの?柳君」

「ちょっと時間が空いたんだ・・・会えないかな?」

「・・・でも・・昨日会ったばっかりだし・・・」

柳の返事はすぐには帰ってこなかった。
その間の静寂が智子を不安にしてしまった。

「・・・そうだね。大人気なかった」

「待って!・・・私も会いたい・・・」

壁の仮面が智子を見つめて笑っていた。

いそいそと出かける智子。
その智子を離れた場所から見ている男がいた。

篠田だった。
庭への出入りを止められてしまった篠田はこうしてただ見ているしかなかった。
智子後を追おうとした時、忘れていた聞きたくない声が聞こえてきた。

「相変わらずね、あなた・・・相変わらずの変態ぶり」

「好きな女が男と密会に行くのを黙って見送ってるなんて」

高村燿子だった。
燿子は不気味な笑顔で再び篠田の前に現れたのだった。

「あれはどう見ても男に逢いに行く顔よ・・・」

「あの人・・・柳っていう初恋の人とダブル不倫してるんでしょ」

「どうして・・・調べたのか、何のために!」

この女の危険さはよくわかっていた。
篠田もこの女のせいで手首を切ったと言っても過言ではなかった。
決して、この女の好きにさせてはいけなかった。

「いざそうなったら、相手の奥さんの事なんか気にしちゃいられない」

「やっとわかったんじゃない。あの人も」

「答えろ!なんでまた現れた」

「覚えてる?あの人が私に言った事」

”きっとあなたの強い愛を受け止めてくれる人が見つかるわ。”

”そういう人と家庭を持つ喜びを知ってほしい”

それは燿子が智子の家に乗り込んできた時の事だった。
篠田が燿子を抑えてなんとかその場を収めたのだった。

「何を企んでる・・・」

「せっかくだから、そろそろ実行しようと思って」

「幸せになるわ。素敵な旦那様との間に可愛い赤ちゃんを授かって」

「邪魔する権利は無いわよ、あんたには」

智子に関係無いのであれば知ったことではないと篠田は思った。
篠田は燿子のお腹に達彦の子供がいることなど知らなかった。

「あなたはおとなしく、あの聖母のようだった奥様が他の男とみだらな姿で・・・」

燿子は篠田の気持ちを逆撫でしはじめた。
燿子のあまりな言葉に篠田は自分の秘密を覗かれたような気がした。

「やめろ!」

篠田は思わず燿子の肩を掴んでしまった

「触らないで!そんな汚れた手で!」

燿子は篠田の腕を振り払って叫んだ。

「私の体は今、誰よりも清く美しい。私こそ聖女、聖母なのよ」

達彦の子供を体に宿した事で燿子は自分の体が清められたと思っていた。
不幸だけの人生がやっと報われたと思っていた。


達彦は晨宋建設の古河と向い合っていた。

「雨漏りが・・・?」

「廃材を使ったのはごく一部、そう言いましたよね。古河社長」

「ほんの僅かな場所だと、口からデマカセだったんですね」

「違います!決してそんなつもりは」

古河は慌てて打ち消した。

「あなたの言葉を信じたから、上には黙っててやったんですよ」

「雨漏りは無償で直します」

「うちだけじゃないんです!他からも苦情が殺到してるんだ!」

「責任を問われるのは俺なんだぞ!あんたそれがわかってて金を渡したのか・・・」

「いざとなったら、俺に全部押し付けて・・・」

「違います!違います!」

古河は謝るしかなかった。
しかし、後が無いのは達彦も同じだった。

「お願いです、なんとかごまかしてください・・・手抜きはない、廃材なんか使ってない」

「破滅したくなかったらそれで切り抜けるしかないんです!」

「破滅・・・」

古河にも事の重大さがやっとわかったみたいだった。

不意に達彦の携帯が鳴った。
知らない番号からだった。

急に古河が取り乱した。
達彦はすがる古河を振り払い廊下に出た。
電話の呼び出しは続いていた。

「はい。浅倉です」

「わ・た・し・・燿子です」

燿子の声に達彦は気を失いそうだった。
晨宋建設のの事で頭がいっぱいなのに、燿子の事が重なると容量をオーバーしてしまう。

「携帯を忘れちゃったの。それでお店に電話お借りしたの」

「店?」

「あなたのご近所にある『BONACCIA」』っていうとっても素敵なカフェ」

「なんだって・・・」

達彦は絶句してしまった。
まさか燿子があの店にいるなんて、そして自分を呼ぶなんて

「だめだ・・・そこは知り合いの・・・」

そこまで言って達彦は言葉を止めた。何を言っても無駄だと思った。
主導権は完全に燿子が握っていた。達彦は従うしかなかったのだ。

「どうしてもあなたに見せたい物があるの。来てくださるまでまってますから」

燿子は受話器を置くと由紀に礼を言って席にもどっていった。
あとは達彦の来るのを待っていればよかった。


「今日の智子はいつもと違った・・・」

服を着る智子を柳が後ろから抱いてそう言った。

「来るべきじゃなかった・・・」

「無理言って呼び出した事?」

智子は首を横に振った。

「家に居たくなかったのよ、だからあなたの電話にすがりついた。」

「怖いのよ・・・あの家が・・・」

智子はあの家がすべての元凶のように思えた。
得体の知れない物が住み着いて、いつも自分を見ているような気がしていた。

「やり直せたらいいのに・・・家も、家族も、私も・・・」

それは智子の心の叫びだった。
ただ、その本当の意味を智子ですら気づいていなかった。

「全部壊してやり直す。俺と一緒に・・・いっそ、そうしようか」

「本気で言ってるの?別れられるの?・・・由紀さんと」

「智子が望むなら・・・」

そう言って柳は智子を抱きしめた。
少なくとも今だけ、そうすると思いたい智子だった。
決して現実にはならないと漠然と感じていた。


燿子はじっと待っていた。

「遅いですね。待ち合わせの方」

由紀がグラスに水を注ぎながら燿子に言った。
由紀は燿子にカクテルを勧めたが、燿子は今は酒を控えていると言った。

入り口でベルが鳴った。
入ってきたのは達彦だった。

「浅倉さん・・・じゃあ、待ち合わせの方って」

「仕事の関係で・・・コーヒー・・・いや、お薦めを」

達彦は差し障りの無い言い訳をし、注文をした。燿子は黙っていた。
由紀はカウンターへ下がっていった。

「・・・やめてくれないか。こういう事は」

「こういう事って?」

燿子はわざとらしくわからないふりをした。
後で智子に知れたらどうなるか達彦には気がきではなかった。

しかし・・・

燿子の目論見は達彦の想像を超えていたのだった。

「早速だけど、これ」

燿子は達彦に書類を一枚見せた。
それは燿子の妊娠を証明する「妊娠証明書」だった。

発行医療機関は「ホワイトレディースクリニック」と書かれていた。

達彦はそれを手にするとすぐに破いてしまった。
こんなのを由紀に見られたらとんでもないことになる。

「何するの!」

燿子が叫んだ所へ柳が帰ってきた。
由紀は二人の様子を伺いながらハラハラしていた。
柳が来てくれた事でホッとしていた

「浩ちゃん!久しぶりに浅倉さんみえてるのよ」

「え?・・・あ、どうも」

柳は達彦を見ると軽く挨拶をした。
もし、智子がここにいたら役者が全員揃っていた。
残念ながら由紀の期待に柳は答えられそうになかった。

柳はカウンターに座り由紀にコーヒーを頼んだ。
燿子が一言しゃべるだけで簡単に泥沼になってしまう状況だった。

「あなたの奥さんもそろそろお家にお帰りの頃ね」

燿子は柳の方を見ながらそう言った。

「女房が?どういう事だ・・・」

見事に達彦が引っかかった。
燿子は続けた。

「あの人、お嬢ちゃんのバイオリンの先生なんでしょ?」

「何故知ってる・・・偶然じゃないのか?この店に入ったのは、知り合いだと知ってて」

達彦は背筋が寒くなった。
燿子の考えている事がわからなくなっていた。

「のんきな人ね、あなたって」

「いくらレッスンでお嬢ちゃんが一緒でも先生なら自由にお家に出入りできる」

「心配にならないの?奥さんの事が・・・」

達彦は何のことだかさっぱりわからなかった。
自分の事が智子にバレる事ばかり気にしていた

「一体なにを?」

「忘れたの?奥さんがイカれた花屋にされた事」

「あの人は紳士だから襲ったりしないでしょうけど」

「危険な匂いがするわよね。初恋の相手って」

「初恋?」

達彦には初耳だった。
達彦はすでに自分の事は忘れていた。

達彦はじっと柳の背中を見つめていた。



達彦が家に帰ると智子が慌ただしく動いていた。
外から帰ってきたばかりのようで、服も着替えていなかった。

「あなた・・・早かったのね。支度遅くなっちゃって」

「お前・・・柳先生とはどういう関係だったんだ?若いころ」

柳との関係を聞かれて智子は動揺してしまった。
手に持っていたじゃがいもをバラバラと床に落としてしまった。

「柳先生と?」

智子は出来るだけ平静を装おうとしていた。

「付き合っていたのか?」

「・・・まさか、どうしたの?急に」

智子は手を動かしながら、達彦を見ずに受け答えしていた。

「バイオリンの上手いスラっとした少年、好きにならないほうがおかしいと思って」

「そりゃ、みんな憧れてたわ、柳君に。でもまだ子供だったし」

「本当に淡い気持ちで・・・」

「淡い・・・初恋か?」

達彦の目が何かを探り出しうとしているように見えた。

「本当にどうしたの?訳がわからないわ・・・急にそんな事を言われても」

達彦はそれから何も言わず寝室に行こうとした。
そして、思い出したように

「あ、修理頼んどいたから・・・明日来る」

「あ、そお?よかった」

気を緩めたところへ話しかけられてそんな返事しか出来なかった。
そのあと智子の目は宙を見つめていた。

達彦は智子が怪しいと思った。
変な話だが浮気してきた自分だからわかる気がした。

あの受け答えは何もない者の返事ではないと思った。
達彦との会話で一度だけあの男を柳君と呼んでいた。

何もない事はないと思った。
そして、もう終わりなのかもしれないとも思っていた。


次の日屋根の修理に古河自身がやってきた。
良介がそばで工事の成り行きを見ていた。

「わざわざ社長さんが見に来るてことは余程の事なんですね」

「他ならぬ浅倉部長のお宅ですから」

「この天井入居した時から変なシミがあったんだけど」

「・・・そんな事は・・・ないと」

良介にはわからなかった。古河の様子はおかしかった。

「他の部屋だって傾いてギシギシいったり、壁にヒビが入ったり」

「なんか、根本的な問題って気がするんですけど」

古河は悲壮な表情をしていた。
良介の言葉になにか思い当たったような感じだった。

「大丈夫なの?アザレアニュータウン、他に苦情とか来てないの?」

「ありません!そんな物は・・・おい、私は表を見てくるから頼んだよ」

古河は職人に声をかけると外を見にいってしまった。


燿子はまた由紀の店に来ていた。
何も知らない由紀はいつものように明るく接していた。

燿子は壁に貼ったポスターに目をつけていた。
それはランチの作り方の講習の案内だった。
由紀はアシスタントを頼んで講習会を企画していたのだった。

燿子はぜひ教えて欲しいと由紀に言った。

「はい。・・でも今回は延期になるかもしれないです。アシスタントの都合がつかなくて」

「誰か代わりの人はいないんですか?友達とか、ご近所とか、浅倉さんの奥さんは?」

「智子さんですか?」

由紀は乗り気だった。智子なら申し分なかった。

「浅倉さんからも自慢話を聞かされるんです、俺の女房の料理は最高だって」

「私もアドバイスしてもらった事あるんです。そっか、聞いてみようかしら」

燿子はポスターを見て智子をここへ引っ張りだすつもりだったのだ。
まんまと生徒ではなく講師として引っ張り出せそうだった。


篠田は花の手入れに余念がなかった。

「今日は無いのね。アルカシア」

その声を聞いたとたん篠田の顔が引きつった。

「花言葉は愛の復活。あれば全部買うつもりだったのに」

「やっぱり、あんた。また浅倉さんとよりを戻そうと」

「・・運命には逆らえないわ」

「運命?」

篠田は燿子の意味深な言葉に思わず聞き返した。

「これで奥さんが不倫相手と駆け落ちでもしてくれたらいいんだけど」

「残念だけど柳って男にとってはただの遊び。」

「あんな可愛い奥さんが居たんじゃ、智子さんなんかつまみ食いよ」

篠田は複雑だった。
悔しいが自分も燿子と同じ意見だった。
智子を影からも守れない自分が情けなかった。

「いっそあなたがもう一度誘惑してくれない?」

燿子はとんでもない事を篠田に要求した。
篠田の脳裏にあの出来事が蘇ってきた。
この女に炊きつけられてあんな事になってしまったのだ。

篠田はテーブルのハサミを手に取ると燿子に突きつけた。

「殺したくなる!あんたを見る度に。自分の心の醜さがあんたの顔に映し出されるんだ」

「羨ましいんでしょ?私が、何も出来ない自分が腹立たしいんでしょ?」

燿子はそこで素早くハサミを奪い反対に篠田に突きつけた。

「だったら、自分に向けなさいよ、このハサミ!」

「あんたが飼ってる悪魔、自分の手で殺しなさいよ!」

「今度はしくじらないように」

燿子はそう言って店を出ていった。


良介は家の設計図を見せて欲しいと言った。

「どうすんの?設計図なんか」

香織が不思議そうに訊いた。

「確かめるんだよ、どこかにミスが無いかどうか」

「なんでお前がそんな事」

達彦は止めようとしていた。
良介に何がわかるとは思えなかったが、万が一という事もある

「さっきもう一度屋根裏へあがってみたんだ。穴は塞がってけど」

「なんて言うか、傾いているような、ねじ曲がっているような感じなんだ」

「設計ミスがあったって事?」

「うん。でなきゃ、晨宋建設がよっぽどの手抜き工事をやったとか」

智子が驚いた表情をしていた。

「あるんでしょ?設計図」

「そんな物、お前が見たってわからん」

達彦はどうやら、設計図を見せる気が無いようだった。

「わかるかどうか、見てみなきゃわからないでしょ」

良介が食い下がった。

「生意気言いやがって・・・少しは親の仕事を信用しろ!」

達彦が全てを拒絶するように怒鳴りつけた。

玄関のチャイムが鳴った。

誰も動こうとしなかった。
仕方なく香織が応対に出ていった。

香織が戻ってきた。

「ママにお客さん。柳先生の奥さんだって」

智子はドキッとした。
こんな時間に由紀が訪ねてくるなんて、良からぬ事ばかり考えてしまっていた。

「私が講習会のお手伝いを?」

由紀は講習会の講師の件をさっそく頼みにきたのだった。

「お手伝いというか、アドバイザーとして」

智子の腕は由紀の認めるところだった。お手伝いでは由紀が納得しなかった。

「やらしてもらえば?料理はママの一番の特技なんだし」

「あのお・・・だめでしょうか?」

由紀は心配そうに智子を見つめていた。

智子は考えた。
ここで断ったら達彦に怪しまれると思った。

「わかりました。お引き受けします」

「良かった。もう浅倉さんのお家には足を向けて寝られません」

智子に承諾されて由紀はご機嫌だった。

ただ・・・

達彦だけは、智子の受け答えに違和感を感じていた。
由紀が燿子の事を喋ってしまわないかと気が気ではなかった。

智子は・・・燿子の罠に入ってしまった。


由紀がご機嫌で帰ってくると柳が来ていた。

「浩ちゃん!来てくれてたんだ、聞いて!超ラッキー」

「なんだよ、どこ行ってたの?」

「浅倉さんち、智子さんに会いに」

それまで笑っていた柳の顔から笑顔が消えた。


智子が一人で寝室に入ってきた。
手には携帯が握られていた。

柳からメールが来ていた。

「由紀から聞いた。驚いた」

「断る理由が見つからなくて、返って変に思われそうで」

智子は返信しながら柳の言った事を思い出していた。


香織は奈津を連れて絵里子の所へ来ていた。
香織はどうしても奈津と絵里子を会わせたいと思っていた。

「いいの?触って・・・本当に?」

絵里子は嬉しそうだった。
奈津も絵里子が気に入ったようだった。

絵里子はそっと手を伸ばし香織がその手を奈津のお腹に運んであげた

「・・・いるんだ。ここに・・・」

そして絵里子は体を起こし、奈津のお腹に頬を寄せた。

「感じる。命の力・・・元気に生まれてらっしゃいね」

絵里子は奈津のお腹の子を精一杯の気持ちで祝福してくれた。

「あ、蹴った・・・」

「本当に?おばさんの声聞こえたんだよ」

絵里子も奈津も本当に嬉しそうだった。


奈津の検診に今日は香織が着いてきた。
二人はもう姉妹のようだった。

「産婦人科って初めて」

香織はドキドキしているようだった。

「待ってて、受付してくる」

奈津はそう言って受付の方へ行った。
ふと待合室を覗いてそこで立ち止まってしまった。

「どうしたの?」

香織が寄ってきて奈津の視線の先を見た。

一人の女がこちらに手を振っていた。

「・・誰?」

香織には面識がなかった。
奈津は厳しい表情で燿子を睨んでいた。

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幸せの時間 あらすじ 31話 [幸せの時間 あらすじ 31話]

幸せの時間 あらすじ 31話

「できたのよ・・・赤ちゃんが。パパはねこうなる事がわかっていたんですって」

「本当よ。夢に出てきてそう言ったの・・・ねぇ、パパ」

燿子は父の遺影に嬉しそうに話しかけ微笑んでいた。

「あり得ない・・・もし妊娠が本当だったとしても俺も子じゃない。他の男の子供だ」

達彦は否定した。
間違ってもそんな事があってはならなかった。

「あんな事言ってる、ひどいパパでちゅね」

燿子は自分のお腹に向かって言った。

「産むわよ、私。責任取ってね、パパ」

「ふざけるな・・冗談じゃないぞ、お前まさか片岡先生にその事・・・」

「話したわ。妊娠したって、パパは浅倉さんですって」

それを聞いて達彦の怒りが爆発した。

「おれを破滅させる気か!!」

達彦は歯ぎしりをしながら叫び、目の前のテーブルを力いっぱいひっくり返した。
燿子はさすがに驚いていたが今度はなだめるように言った。

「もういいじゃない。そこまでして出世なんかしなくったって」

「私、贅沢はのぞみませんから。大事な赤ちゃんのパパを破滅させたりするもんですか」

燿子は「ねぇ」とまたお腹に語りかけるように言った。

達彦の中で何かが音を立てて崩れていった。
それは達彦の人生の終わりを告げる葬送曲のようでもあった。

智子はどこからか良介と香織が描いた家族の絵を引っ張りだしてきた。

「見て、やっと見つけた」

「うわあ、下手くそ。奈津さんには見せられないね。お兄ちゃん」

「な、お前だって・・これ俺か?」

良介と香織がお互いの絵を見てじゃれあっていた。

「お世辞にも上手とは言えないけど・・・みんなあったかい」

そこには奈津が想像した通りの絵があった。
絵を見てホッとしたという智子に香織が「何故?」と尋ねた。

「少なくともこの頃はあなた達は、幸せだった。」

「ママもいいお母さんができてたのかなぁって」

すると良介が意外な事を口にした。

「俺、会ってみようかな・・・奈津ちゃんのお母さんに」

「良介・・・会ってどうするの?」

智子は良介が変わろうとしているのだと思った。

「わかんない。ビビって何も言えないかもしれないし」

「ただ、俺もしっかり現実をしるべきじゃないかって」

「奈津ちゃんが20年間どんな風に生きてきたのか、お母さんに合えばわかるんじゃないかな」

良介は少しづつ大人になりかけていた。
奈津の事を正面から受け止めようとしている事が智子に伝わった。

「兄貴、頑張れ!」

香織が応援してくれた。なんだか誇らしげだった。


やっと家にたどり着いた。
自宅までの距離がこんなに遠く感じた事は無かった。

達彦は玄関を開けて中に入るとその場に崩れるように座り込んでしまった。
家の奥は何やら楽しそうだったが今の達彦はそれどころではなかった。

「おかえりな・・・どうしたの?」

「いや、別に・・・」

智子が出迎えて達彦の様子がおかしい事に気づいた。
達彦はなんでもないふりをして中へ入っていった。

「お食事は?食べてきたの?」

「いや・・・」

「じゃあ、すぐ支度を・・・」

「ああ、いい・・・ちょっと胃の調子が・・・」

達彦は食事どころではなかった。実際に胃がキリキリと痛んだ。

「ねえ。赤ちゃんどうだったの?」

香織のその言葉に達彦はドキッととした。一瞬自分の心を読まれたのかと思った。

「奈津さんの検診、ママも一緒に行ったんでしょ」

「うん。エコー見せてもらった。よく動いて元気そうな赤ちゃんだった」

「じゃあ、男の子かな?」

「それがわかるのはもうちょっと先ね」

いつもの達彦なら話に割って入って、二言三言言っていただろう。
だが、今の達彦はそんな話を聞くのも嫌だった。

「女の子だったらお兄ちゃんベタベタの甘いパパになりそう」

「パパもそうだったの。香織が赤ちゃんの時抱っこしてたら、トロケそうな顔で・・」

智子はそう言うと後ろの達彦の方に振り返った。
達彦は生気のない顔で立っていた。その目は宙を見つめていた。

「・・・大丈夫?あなた・・・随分具合悪そうだけど・・」

「・・早めに休むよ」

達彦はそれだけを言うと寝室に入っていった。
達彦の頭の中は燿子の言った事でいっぱいだった。


智子と良介は奈津の母・喜代美のところへやってきた。
店の扉をくぐると喜代美の声が聞こえてきた。

「だあれ?・・・あんた、また・・」

喜代美は座敷でこちらに背を向け、瓶にラッキョウの漬物を入れ替えていた
喜代美は振り返って智子を認めると迷惑そうに言った。
後ろに従ってきた良介が前に出て喜代美に挨拶をした。

「浅倉良介といいます」

「息子です」

智子が付け足した。

「あの、奈津さんの事なんですけど・・・」

「ああ、じゃあこの坊ちゃんが・・・うぶそうな顔してる」

喜代美は立ち上がって良介の前に向き直った。

「災難だったわねえ。とんでもないのに引っかかって」

喜代美は相変わらず奈津の事をボロボロに言った。
喜代美は良介の口に自分で漬けたラッキョウを良介も口にほり込んだ。

「で?一緒にでもなるわけ?やめといたほうがいいって言ったのに」

良介はただ黙って立っていた。

「会っていただけないでしょうか?奈津さんに」

「会ってあなたがした仕打ちを謝っていただけないでしょうか」

「私が何したって?」

喜代美は再び
座敷に座りこちらに背を向けた。

「あなたは娘さんを自分の欲望の犠牲にした・・残酷で卑劣でおぞましい・・・」

「人の血が通っているとは思えないやり方で・・・」

智子は喜代美が奈津にした仕打ちをはっきりと指摘してみせた

「まるで化物みたい?」

「化物です!幼い心を食いちぎって引き裂いたんですから」

「母親なら命がけで我が子を守るべきなのに、どういうつもりで奈津さんを産んだんですか」

「十月十日おなかの中で育てた子じゃないですか。」

「泣いて叫んで痛みに耐えて、力振り絞って産み落とした子じゃないですか」

「あの時の喜びはどこへやってしまったの」

一気にまくし立てる智子の言葉を喜代美は黙って聞いていた。

「・・・産まなきゃよかったってことだよね。私みたいな女は。」

喜代美は母親の資格が無いのに子供を産んだと言われたのだと思っていた。

「違う!生まれてきてよかったって言ったんです。初めてそう思う事ができたって」

「感謝してるんです。お母さんに」

その言葉はきよみには意外だったようだった。
しかし智子は

「その言葉を聞いてあなたが許せなくなった。同じ母親としてあなたが許せない」

その言葉に喜代美は反応した。

「同じ母親?おたくと私のどこが一緒だって言うんですか!」

喜代美は智子が恵まれた環境で母親をやってきたと思っていた。
それ以上に自分の境涯が酷いと思っていた。

「赤ん坊産めばどんな女でも母親になれる、母親だったらわが子を愛さないはずがない」

「そんなのただの思いこみですよ」

喜代美は否定的だった。

「そんなことない・・・」

「いるんですよ!そういう女だって・・・自分じゃどうしようもないんです」

喜代美もなにかを抱えているようだった。

「あの・・・お母さん」

今度は良介が話し始めた。

「本当はお母さんに会うのが怖かった。奈津さんが背負ってる物が重くて・・・」

「でも、俺、男だからかな・・・お母さんの言うこと少しわかる気がします」

「子供を持ったからといって、すぐにちゃんとした親になれるわけじゃないですよね」

「母親だけじゃなく、父親も・・・実際事件もたくさん起こってる」

「お母さんが奈津ちゃんにした事だって本当にあり得ない・・・」

「だから、自分も父親になったら精一杯努力しなきゃって・・そう思いました」

喜代美は良介の言葉をジッと聞いていた。

「俺、奈津ちゃんを嫁にします。奈津ちゃんを産んでくれてありがとうございました。」

何かが喜代美の心に響いたようだった。

良介は喜代美にしっかりと頭を下げていた。
智子はそんな良介を見て自分の考えがまだ浅かった事を思い知らされた。

「勝手にしたらいいよ。私には関係ないんだから・・・」

喜代美はコップを取り出すとそこへ日本酒を注ぎ飲み始めてしまった。
それは喜代美の動揺を象徴していた。

ここで崩れてはいけなかった。

「会っていただけないんですか?」

「いまさら会って何になるっていうんです?」

「頭さげたからって過去が消えるわけじゃないんです。あの子を追い詰めるだけです」

「わかりゃしません。おたくみたいな立派な母親に、私みたいな女の気持ちは」

「二度と来ないでください」

喜代美は二人のほうを向きはっきりと言った。
智子と良介は仕方なく店を出ることにした。

良介は智子に智子と反対の事を言ったと謝った。
智子は何も言わなかった。
良介はそのまま、奈津の所へ行くと言って智子と別れた。

店の中では喜代美がコップに注いだ酒を一気に煽っていた。
もう、平常ではいられなかった。

こみ上げてくる想いに耐えられなかった。
忘れたことなんか一瞬だって無かった。

想いの欠片が涙になってテーブルに落ちた。

店から飛び出しそうになったが、かろうじてこらえた。
自分が出来なかった事をやってくれる人が現れたのだ。

喜代美は深々とお辞儀をし、いつまでもそこに佇んでいた。



智子は柳と逢っていた。

「どこが立派な奥さんなのかしら・・・」

「こんな事してるから?」

智子は柳の腕の中にいた。
偉そうな事を言いながら自分がやっている事は何なのだろうと思っていた。
しかし今の智子は心も体も柳を求めていた。
柳との関係があるからこそ自分は変われたのだと思っていた。

智子の気持ちは複雑だった。

「智子はやっと本当の智子になってきたんだ」

柳も智子が変わった事を肯定してくれた。

「二人でいる時はただの女になれ」

「柳くん・・・」

甘美な時間は瞬く間に過ぎていった。


良介は奈津の所へやってきた。

「会ったの?あの人に」

「うん。お礼も言ってきた、お母さんが産んでくれたおかげで、奈津ちゃんと逢えたから」

「あの人・・・なんて?」

奈津は良介の前にコーヒーカップを置きながら心配そうに訊いた。
良介は軽く首を横に振った。

「おふくろは会って謝れって言ったけど、俺はそうは思わない」

「いつか奈津ちゃんが会いたいと思う日が来たら会えばいい」

「その日が来なかったら・・・それはそれでいいよ」

それから良介はきちんと正座をし奈津をしっかりと見て言った。

「これからは俺がそばにいる」

「辛い時は俺に言って、俺も奈津ちゃんに全部見せるから」

「その時は助けてよ、甘えんなしっかりしろって、ケツひっぱたいてくれていいけどね」

「一緒にやっていこう。滑ったり、転んだりひっくり返ったりしながら・・・」

「これが最後のプロポーズ・・・」

奈津はまっすぐに良介の言葉を聞いていた。
そしてスッと立ち上がると、あのビーズに指輪を持ってきた。

「持っててくれたの?」

「・・・良介・・・私、あんたを幸せにする」

「奈津ちゃん、それ俺のセリフ・・・」

「今、あんたの顔見ながら本気でそう思ったから・・・」

良介は気づいた。
背伸びして奈津を守るなど出来るかどうかわからなかった。
ならば、お互いの足りない部分を補い合って二人で頑張ればいい。
そして、いつか奈津と子供を守れるくらいに強くなればいいのだと。

奈津も気づいていた。
誰かを幸せにしたいという気持ちがだいじなんだと。
それが愛なんだと。

奈津は自分から良介の前に左手を差し出し、良介はその薬指に指輪をはめた。

二人の間に静かな時間が流れ、二人の心はやっと結ばれた。


達彦は楠田に呼ばれていた

「片岡先生は何と・・・?」

「理由は本人の胸に訊け・・それだけだ」

「これで先生とのパイプは切れた、我社にとっては致命的だ!」

楠田にはさっぱり訳がわからなかった。
達彦も本当の理由を言うわけにはいかなかった。

「正直申し上げて、政治家との裏取引は、フェアではないと思います」

「規制のかかった土地を開発しようとしたプラン自体に無理があったと」

達彦は正論に打って出た。この場はこう言うしかなかった

「開き直りか!?他に案でもあるなら言ってみろ」

楠田は厳しい目つきで達彦を睨んだ。

「やはりここは人気の高いアザレアシリーズを新展開して・・・」

「晨宋建設の工事に手抜きはない、君ははっきりそう言ったな」

「・・・はい」

「だが、苦情の出どこはほぼ晨宋建設の手がけた物件ばかりだ」

「大丈夫なのかね?君が住んでる家は・・・」

「再調査をして、君の報告と違っていたら、もはや新しい企画どころではない!」

万事休すだった。
再調査などされたら全てが明るみにでてしまう。

達彦はもうもどれないところまで来てしまっていた。


香織は絵里子のところにいた。
今日は矢崎もそばにいた。

矢崎は絵里子の髪をまとめてあげていた。

「おじさん、今日会社やすんだの?」

「ああ、昨夜ちょっと熱が出たんだ」

それを聞いて香織は今度は絵里子に言った。

「大丈夫?おばさん苦しくない?」

「うん、もう大丈夫」

矢崎が無理に喋らなくていいといったが、絵里子は大丈夫と言って聞かなかった。

「ね、香織ちゃん、携帯あるでしょ?」

「うん、あるよ」

「写真撮って、家族写真。私達3人の」

矢崎が横から会話に入ってきた。

「今じゃなくて、もっと具合の良い時にしたら?」

矢崎は異常なくらい絵里子を心配していた。
すると絵里子は

「・・・時間が無いわ・・・もうそんなに。ねえ、撮って」

香織は携帯を開くと3人の写真を撮った。

「ああ、綺麗に撮れてる」

絵里子はとても喜んでいた。
香織が2枚目を撮ろうとすると矢崎はトイレに行くといって病室から出てしまった。

そんな矢崎を見ながら絵里子は寂しそうに笑っていた。

「おじさん、携帯貸して。写真赤外線で送るか・・・?・・・」

病室の外で座り込んでいる矢崎を見つけて香織は近づいた。
矢崎はそこで泣いているのだった。

「・・・おじさん・・・」

「本当なんだ・・・本当に時間が無いんだ・・・香織ちゃんも覚悟していてくれよ・・・」

矢崎は泣きながら絵里子がもう限界だということを香織に告げた。

矢崎は消えようとしている小さな火を守りたかった。
絵里子は生きた証をたくさん残したかった。

あんなに幸せそうだった二人が別れなければならないと知って香織は悲しかった


香織が家に戻ると大雨になった。
香織は絵里子の事を思うとやりきれなくなっていた。
ただ、庭を見つめボーッとたっていた。

「雨、随分ひどくなってきたわね・・・」

智子がやってきてカーテンを閉めた。

その時、智子の額に水滴が落ちてきた。
智子は天井を見上げた

「何これ!」

「もしかして・・雨漏り?この上、お兄ちゃんの部屋だよ」

二人は慌てて2階の良介の部屋に行った。
部屋に入って電気をつけるとベッドの上に大量の雨水が落ちてきていた。
あのシミのところから水が流れていた。

二人は慌てて布団をはぎベッドを動かした。

「バケツ持ってくる!」

香織は下へ駆け下りていった。
そこへ良介が帰ってきた。

「どうした?」

「雨漏り!お兄ちゃんの部屋!」

良介は急いで自分の部屋にあがっていった。

「うわ!なんだよこれ!」

雨漏りはひどくなる一方だった。
香織はバケツを置いたがすぐに溢れそうだった。

「こんな物じゃだめだ!どこか屋根裏へ上がれたよね」

良介は屋根裏へあがって雨漏りをなんとかしようとしていた。

「うわ、びしょびしょだ」

良介は懐中電灯で雨漏りの場所を探した。
そこはとんでもないことになっていた。

下では智子と香織が悪戦苦闘していた。

「香織!そっち!」

「キャッ!」

雨水を受けようとして香織は滑って転んでしまった

「嫌・・・もう・・・」

とても手に負える雨漏りではなかった。

家はとうとう傷だらけの姿を露わにしはじめた。

智子とその家族の運命の歯車はまだ回り続けていた。
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